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こじらせぼっちはハーレムエンドを目指さない  作者: 猫派
二章 このハーレムは重すぎる
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三節 逢いたいが情、見たいが病



「なんで私までこんな……」


「私の事、好きなんでしょ? じゃあこのくらい手伝ってよ」


「あんたねぇ……自分が何言ってるか分かってる?」


「良いからちゃんと見てて。見失ったら10日は口きかないから」


「そんなぁ……」




 ある日曜日の午前、私は駅前ロータリーにて一組のカップルを追っていた。男の方はこれと言って特徴のない平凡な容姿、現在私が公然と想いを寄せている男性である。


 一方女の方は私の恋敵にあたる。愛想は無いが整った顔をほころばせ、傍目にも機嫌が良さそうだと分かる。


 二人はこの一週間、同じ家で寝食を共にしている。もちろん二人きりという訳ではないが、交際もしていない男女の関係からすると大きく逸脱している。


 彼女が彼の家に突然押しかけたのには、彼女なりの考えがある訳で、その背景にはさらに複雑な二人の関係がある。私が彼女の想いを尊重する形で、男の家から撤退してから5日経つ。


 このままいつまでも厄介になるとも考えづらく、男の妹からの情報もあって、彼女が想いを告げるなら今日だろうと考え、行く末を見守ることにしたのである。




「駅前から離れていくわね。ここからは歩いて行くみたい」


「学校の最寄り駅……ご主人様は土地勘のある場所少ないからね。人が減ったら少し距離を離すよ」




 今回、カモフラージュと周囲への警戒の徹底のため、相方を連れてきている。私の想いと近況を諸々知っている、頼りになる同行者だ。頭の回転が早く、尾行にも慣れている上に、絶対に私を裏切らない。女の子が好きな事を除けば、スペックの高い才女である。


 彼女は中学時代から私をつけ狙っていた過去があり、かねてより件の彼に関する情報や私物の収集などにこき使っているので、その隠密スキルは折り紙付きである。ストーカーとその元ストーカーなので、尾行がバレる可能性は万が一にもないと思われる。


 二人は駅前を離れ、大通りを歩いている。これだけ人がいれば、距離を離す必要もなさそうだ。




「……結構歩くの速いわね」


「……」




 二人の間に会話はなく、目的地はすでに決まっているようだ。


 彼から聞いた二人の関係は奇妙なものだった。中学時代に起こる事件の度に、なぜか居合わせる二人。そのあまりに出来すぎた必然は、月並みな言い方をすれば、運命とも言えるかもしれない。


 何の必然性もなく、いつの間にか彼に惹かれていた私とは対照的と言える。言うまでもなく、現状最も警戒すべき相手だが、なぜだか嫌いにはなれなかった。それはもう一人のライバル候補に対しても同じだ。


 自分の気持ちを疑うつもりはないが、私の彼に対する執着は、一般的な恋愛感情とは異なるものなのかもしれない。




「映画館に入って行ったわね」


「私たちも入るよ。チケット売り場に入る前に少し近づこう」




 通り沿いの小さな映画館だ。どうやら今回はゲーセンデートではないようだ。




「恋愛映画みたいね」


「またベタな……スクリーンは分かる?」


「スマホのカメラで座席までバッチリよ」


「……プライベートなんてない世の中になったものだよね」


「他人事みたいに言うわよね……三列後ろが空いてるけど」


「見るの?」


「待ってるのも暇でしょ? 良いじゃない。私たちも楽しみましょうよ」


「……暗いからってやらしい事しないでよ?」


「私を何だと思ってるのよ……」




 やれやれ、みたいな顔をしているけど、信用してほしいなら良い加減この恋人繋ぎをやめてほしい。


 目的のスクリーンに到着して指定席に向かう。普段と髪型を変えて眼鏡をかけているので、顔を見られても私とは分からないはずだ。




「何か話しているみたいだけど、ここからでは聞こえないわね」


「普段よく映画を見に行くか、話してる」


「耳が良いのね」


「うーん、読唇術? あの人の表情から、なんとなくそう言ってるなって」


「……ねぇ、こうして二人で、映画を見に来た事もあったわよね」


「え? あったっけ……?」


「あ……あんた、忘れたの?! 去年の12月に、頑張ったご褒美にって……!」


「目立つから静かにして」


「う……ほ、本当に忘れちゃったの?」


「えっと……そう言えば、ホラー映画を見に行った気がする」


「そうでしょ!? 良かった……」




 相方は安堵した表情で、乗り出していた体を再びシートに預ける。私にとっては些細な記憶でも、彼女には大切な思い出だったようだ。後でそれとなくフォローしておこう。


 ぼうっとスクリーンに映る映画の予告を眺めていると、ある一つの考えが頭を過ぎった。私にとってすべての始まりだった入学式のあの日の事も、彼は忘れてしまっているのかもしれないという事が。


 それでも構わない。私にとって重要なのは、今私が彼と親しい仲であるという事実だ。ただ、もし本当に忘れてしまっているのだとしたら、それはなんだかとても悲しい事だと、そう思った。


 覚えていてほしいなんて、とんだ贅沢だ。私はずっと彼の側にいたのに、彼はその事を知らない……もしそれが悲しい事だというのなら、私にはもう本当に信じられるものが無くなってしまう。彼と共にいたいという、一つの願いを除いては……


 劇場の照明が落とされ、辺りが闇に包まれる中、私の意識は一つの微笑ましい記憶へと飛んでいた。

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