番外編 シャイン13歳
感情の神 シャイン
感情の神となってからも、シャインは自らの領地を治めていた。
そこはかつて父が統治していた土地。
エルフ。
魔族。
人間。
三つの種族が住む場所だった。
だがその土地は、決して平和ではなかった。
争いが絶えない。
種族同士の争い。
領地を巡る争い。
時には、同じ種族同士でも争いが起こる。
小さな衝突はすぐに戦いへと変わる。
怒り。
憎しみ。
恐怖。
それらが土地の空気を満たしていた。
本来なら、感情の神はそれを抑える存在だった。
怒りが膨らみすぎれば鎮め、
憎しみが暴れれば均衡を保つ。
それが父のやり方だった。
だが――
シャインは違った。
止めない。
それどころか、
争いが激しくなるよう仕向けることさえあった。
戦場を見下ろしながら、
そっと心に触れる。
怒りを膨らませる。
憎しみを深くする。
ほんの少し火をつけるだけで、
争いは簡単に激しくなる。
人も、エルフも、魔族も。
感情に支配される生き物だった。
シャインは静かに思う。
――愚かなものだ。
だが同時に、
それが面白くもあった。
感情とはこれほどまでに強いものなのかと。
⸻
天上界では、シャインは相変わらず孤立していた。
神々は距離を置く。
表向きは神として扱う。
だがその視線の奥には、
半神への軽蔑が残っていた。
シャインは気にしなかった。
むしろ、その感情を見るのが面白かった。
神々ですら、感情から逃れられない。
それが滑稽だった。
ただ一柱を除いて。
闘神。
先代の闘神。
シャインは何度もその感情を探った。
だが――
読めない。
怒りも。
憎しみも。
恐れも。
何も感じ取れない。
まるで空白だった。
ある日、シャインは闘神に尋ねた。
「戦うことに迷いはないのか」
闘神はシャインを見た。
その瞳は冷たく静かだった。
そして、きっぱりと言った。
「無い」
短い言葉だった。
闘神は続ける。
「邪魔するものは」
「容赦なく切り捨てる」
それだけだった。
その言葉には迷いがなかった。
揺らぎもない。
絶対だった。
シャインの胸の奥で、
わずかな感情が動く。
恐怖。
そして――
高揚。
――この神は違う。
他の神々とは違う。
この神は、戦いそのものだ。
シャインは闘神を興味深く見ていた。
だがその関係は、思わぬ形で変わる。
ほどなくして、
闘神が結婚したという話が広がった。
相手は神ではない。
人間の女だった。
シャインは理解できなかった。
闘神が?
人間と?
神が、人間を?
それはあまりにも不可解だった。
だがシャインは思った。
――気まぐれだろう。
闘神は戦いの神。
その本質が変わることはない。
そう考えていた。
だが――
違った。
闘神は変わり始めていた。
人間の女を愛し始めたのだ。
最初はわずかな変化だった。
だがそれは日ごとに強くなる。
闘神の中に、
今まで感じたことのない感情が生まれていた。
安堵。
そして――
愛。
それは明らかに正の感情だった。
シャインは初めて動揺した。
闘神の感情は読めない。
そう思っていた。
だが違った。
読めなかったのではない。
存在しなかったのだ。
そして今、
そこに新しい感情が生まれている。
それも、
とても強い感情が。
シャインは静かにその変化を見つめていた。
――面白い。
この感情が、
神々にどう影響するのか。
それを見てみたいと思った。
シャインはしばらく様子を見ることにした。
闘神。
そしてその人間の女。
この二人が、
神々の世界に何をもたらすのか。
だがその時のシャインは、
まだ知らなかった。
いずれ――
その二人の間に生まれる子供と、
自分が相対することになることを。
その子供の名が、
ホープであることを。




