番外編 シャイン7歳②
子供たちは後ずさりながら、シャインを見ていた。
誰も近づこうとしない。
さっきまで笑っていた顔は、今は恐怖に変わっている。
「……化け物」
誰かが小さく呟いた。
そして子供たちは一斉に森の奥へ逃げていった。
シャインはしばらくその場に立っていた。
何が起きたのか、自分でも分からない。
ただ胸の奥に、まだ怒りが残っていた。
やがてシャインは歩き出した。
頼まれた買い物をしなければならない。
母が待っているからだ。
⸻
市場に着くと、いつものように人が行き交っていた。
人間、エルフ、魔族。
それぞれが自分の商売をしている。
シャインは母から渡されたメモを見ながら、必要なものを買った。
パン。
乾燥肉。
薬草の束。
買い物を終えると、森の道を通って家へ戻る。
だがシャインの頭の中には、さっきの出来事がずっと残っていた。
あの風。
あの突風。
怒った瞬間に起きた。
まるで――
怒りそのものが魔法になったようだった。
⸻
家に帰ると、母が食事の準備をしていた。
「おかえり」
優しい声だった。
シャインは袋を差し出す。
「頼まれたもの、全部買ってきたよ」
母は中を確認し、微笑んだ。
「ありがとう」
だがシャインはその場を動かなかった。
母が気づく。
「どうしたの?」
シャインは少し迷ってから言った。
「母さん」
母が振り向く。
「ぼくの父さんって……」
言葉を探す。
「どんな人?」
母の手が止まった。
部屋の空気が少し重くなる。
母はゆっくり言った。
「どうして急にそんなことを聞くの?」
シャインは答える。
「今日、言われた」
少し俯く。
「ぼくの父は人間だとか、魔族だとか」
「だからぼくはエルフじゃないって」
母は何も言わない。
シャインは続けた。
「でも、それより……」
自分の手を見る。
「変なことが起きた」
母の眉がわずかに動く。
「変なこと?」
シャインは頷いた。
「怒ったんだ」
「母さんのことを悪く言われて」
声は小さかった。
「その時」
少し息を吐く。
「風が吹いた」
母の顔が変わる。
驚き。
そして迷い。
シャインは続けた。
「すごい風だった」
「ぼく、何もしてないのに」
「でも……」
言葉を探す。
「怒りの気持ちが、そのまま魔法になったみたいだった」
母はしばらく黙っていた。
何かを考えているようだった。
だが、何も言わない。
代わりにゆっくり近づき、シャインを抱きしめた。
強く。
「母さん?」
シャインが戸惑う。
母はただ言った。
「大丈夫」
それだけだった。
シャインは母の腕の中で考えていた。
自分は何者なのか。
なぜ、あんな力が出たのか。
答えは見つからなかった。
⸻
次の日。
シャインは集落の図書館へ向かっていた。
森の中央にある、小さな建物だ。
古い本がたくさん置かれている。
もしかしたら、自分の力のことが分かるかもしれない。
そう思った。
だが図書館の前に着いた時、足が止まった。
昨日の子供たちがいた。
そして今日は、昨日よりも多かった。
シャインを見ると、一人が言った。
「また来たぞ」
別の子供が睨む。
「ここはお前の来る場所じゃない」
昨日までとは違う。
言葉だけではない。
はっきりとした敵意だった。
一人の子供が地面から石を拾う。
そして――
投げた。
石はシャインの肩に当たった。
鈍い痛みが走る。
「出ていけ!」
子供が叫ぶ。
「ここはエルフの場所だ!」
別の子供が言う。
「お前みたいなやつが来るな!」
胸の奥で、感情が揺れた。
怒り。
そして悲しみ。
その二つが、胸の中で混ざる。
すると――
力が湧き上がる。
昨日と同じ感覚。
感情が、そのまま力になる。
その瞬間だった。
もう一人の子供が石を拾う。
「もう一回やれ!」
腕を振りかぶる。
石が飛ぶ。
だがその瞬間。
シャインは手を動かした。
風が起きる。
鋭い突風。
石は途中で弾かれ、地面に落ちた。
子供たちは息を呑む。
シャインは立っていた。
昨日とは違う。
今度は――
自分の意思で風を起こした。
周囲の葉が揺れている。
その様子を、遠くから大人たちが見ていた。
森で働いていたエルフたち。
その目に浮かんだのは驚きではない。
恐怖だった。
「……あの子」
誰かが呟く。
「やはり普通じゃない」
シャインはその視線に気づいていた。
胸の奥が冷たくなる。
この瞬間から――
集落の大人たちもまた、
シャインを恐れるようになっていった。




