陰謀
夢の中では無双できても夢が無ければ無双などできない。それに気づくのは今では無いけれど僕は今起き上がる。
「意識が、院長。彼の意識が戻ったようです。」
まるで深い底から呼び覚まされるようなうなりを聞いた。瞳孔が開き、白い天井を映す。
「あなたは…」
目の前のお爺さんが僕の名前を呼んでいる。白い衣装はまるで白衣のようだった。
「しっかりして下さい。」
彼は僕の肩を揺らして声をかける。僕の頭は船を漕ぐように揺れた。
「一体、ここは…あなた、あなたは誰ですか?」
彼はマスクを手で外し胡乱だ顔を見せて言った。
「医師です。あなたは自分の名前がわかりますか?」
彼は僕に視点を合わせて決して離さない。彼の奥には同じく白衣を着た数人の大人が立っている。
「僕は、航平、凪航平だ。」
目の前の医師は背中を引いて狼狽する。奥にいる医師たちは慌てた様子で廊下へ出て行く。とりあえず上体を上げて視点を高くする。そして僕は病床に足をつける。それでも医師は硬直したまま動かない。
「何があったのか分からないけれど、父がもうすぐ墓参りから帰る。僕は帰るよ。」
医師にそう言うと彼は口を半開きのままおずおずと頷いた。それを尻目にしてすぐ横を通り去る。僕は頭をかきながら室外に向かった。病床からの去り際、医師は息のこもった声で一つ呟いた。
「彼は科学を逸脱している…」
病院の屋上で蛾に擬態しているかのような衣装を着た男が笑う。当たり前だ、と。




