お盆
8月13日、同日の放課後。僕は厳島公園に向かっていた。榊と菓子を入れたレジ袋が僕の右腕に跡を残す。歩みが進むにつれて、公園にいる彼女の姿がはっきり見えるようになる。僕は服の上から胸を叩いて息を吐く。彼女は時折り髪を触ったりポケットの手鏡を取り出していた。僕はギリギリ届く距離で背中を向けたままの彼女に言った。
「麗華、行くか。」
弱々しいともすれば無視されるかもしれない声量で僕は彼女に言う。背中越しの彼女はビクッと全身を波立たせ、振り向いて僕を見た。風が靡いて彼女の長い髪が揺れる。艶のある黒髪は夕日に舐められて輝き出す。彼女の頬もまた茜色に染められていた。
「早く、行こう。」
彼女はそう言うと、なんとも言えない距離で僕の横を歩いた。学校を出て、通学路を抜けて山の方へ。
「お菓子は何買ったの?」
広い田園を歩きながら彼女は尋ねた。沈みかかった夕日が道を照らして、車の音も人の声もなかった静かな夕方だった。僕はレジ袋を提げた腕を彼女の前に見えるように持ち上げた。
「ふ菓子を5袋買った。」
そばでクスクスと笑い声がする。買いすぎでしょ、と彼女は言った。
「お義母さん、好きだったもんね、ふ菓子。」
僕はああ、と答えて、ここだ、と指を指した。指さす先は、不自然に盛り上がった丘。沈みかけていた太陽はもう見えなくなり、一気に暗がりへと変貌する。
「水を拾ってきてくれないか。」
僕たちは丘の上に着いて荷物を下ろす。それから僕はそばに置かれていた凹凸が目立つブリキのバケツを彼女に渡した。うん、と彼女は言って水をとりに離れる。僕は大地に横たわって、木々の影で覆われた真っ暗な対象物を見る。
「久しぶりだな、母さん。」
母の代わりに風が靡いた。ざわーと木々は葉をぶつけあいながら音を奏でる。気持ちの良い環境音だった。
「今日も麗華きてるよ。ふ菓子は5袋買ってきた。」
僕は真っ暗な空を見上げながら一番星を探そうと目を凝らす。そばには水バケツを抱えた彼女が鬼の形相で僕を見つめていた。
「水汲んだから、あんたもちゃんと働いてよ。」
それから僕と彼女はせっせと働き、月が大きく上がった頃に解散を決めた。去り際に彼女がうじうじと身を揺らしながら。
「航平、私…」
その言葉がどうであろうと言うのだろう。けれど顔を滲ませてムカついた僕がそこに居た。
「幸せならそれでいいだろ…アレは麗華のせいじゃない。」
彼女は顔を上げて僕をみた。自動販売機の明かりが彼女の悲壮な顔を煌々と照らしていた。
「…あれは僕らの問題だから気にするな。」
でも、と言う彼女に無理矢理手を振ってさようなら、と僕は言う。彼女は諦めたのか僕を追う足音は聞こえなかった。僕は歩き続けた。あの貸本屋にいる父の元へ。かくして僕は言う。
「あれは呪いだから…だから麗華は関係ない。」




