消失
白い巨人がそこにいた。
キリアさんは静かに俯く。そして小さく「失敬。」と言うと姿が消える。
隠れたのでも走り去ったのでもない。消えた。
同時に窓の奥の巨人も消える。質量を失い膜が透ける。赤い閃光。それが巨人の周りを回っている。僕はそれをみていた。雄介は固唾を飲んで見守っていた。押し入れは静かだった。
しばらくして閃光が見えなくなった。
同時に押し入れに記された封印の文字が消えた。
押し入れから父の声が聞こえた。雄介は最初こそ戸惑ったが、それから静かに押し入れに近寄った。
「そこ、聞こえるか?」
「あぁ。」
父の声が聞こえた。そして小さな声で呟く麗花の声。
僕は静かにそれを聞いていた。押し入れが開かれる。雄介によって慎重に彼らは抜け出す。
押し入れの中を覗くと黒い血が飛び散っていた。
雄介は神妙な顔で口を開いた。
「ここを去れ。」
キリアさんはもういない。それは誰の顔を見ても分かることであった。何より僕の顔には涙が滲んでいた。
白い巨人はまだあそこにいた。気づけば白い悪魔たちも消えていた。僕たちを守るものは何もない。それから生まれるわずかな焦りと恐れが僕の胸を一杯にする。
雄介が手招きする。
キリアさんはいない。
それほどまでにあの巨人は強い。
だからどうすることもなく僕たちは去る。
静かに開かれた黒い扉の中へ、僕たちは消えていった。




