早朝
翌る日、僕は雄介の腕の中で目を覚ました。真剣な顔で眠りにつく雄介。僕は彼の腕からそっと抜け出た。窓から太陽の光が見える。早朝。見慣れた自室に眠る見慣れない三人の姿。僕は口を緩ませて彼らの寝顔を見ていた。
これが最期とでも言わんばかりの顔で。
「今日が最期だとお前は思っているのか?」
振り向いた。窓にもたれる小さな影。僕はそっと胸を撫で下ろした。僕の瞳に彼女がある。確かにある。
「気まぐれじゃ。ただの、別にお主らのためではないぞ。」
そう言うその小さな影は吸血鬼その子だった。
「あの時は大きく見えたけれど案外小さいんだな。」
「いいや、お主が大きくなっただけじゃ。」
「僕は身長変わっていないはずだけど。」
「いや違う。心の器さよ。」
「そうか…」
吸血鬼の言葉はやはり深い。僕の知識の中での吸血鬼像と合致する。けれどそれよりかはかなり人間友好度が高い気がするが。
「こいつらは寝ているようだが。こいつらは妾のことを知らんのだろう?」
「はい。けれど麗花以外はみんな頭のネジが外れていますから大丈夫だと思いますよ。」
僕の返しに吸血鬼は半ばスカしたようにあしらう。
「それは良いことじゃないじゃろ。まあ良い。妾はキリア*スタンダート*ザヒと言う。よろしく頼むぞ。」
「キリアさんでいいでしょうか。」
「ああ。」
「もしかしてロシアの方でしょうか。」
「なぜわかる。」
「いいえ、キリアというのに聞き覚えがありまして。」
「ああ、お前の浮かべているそれ。妾が発祥者だぞ。」
その言葉に僕はまた絶句する。吸血鬼は僕らの常識を超えているとつくづく思いながらこう返した。
「では世界を守った後、言語の作り方について教えてくれますか?」
「良いぞ。」
じきに皆、目を覚ました。朝ごはんは吸血鬼のキリアさんが空間転移で取り出してくれた熱々のご飯であった。雄介が言う。
「どこのレストランのやつですか。美味しすぎますよ。」
「それは妾に供えられた供物じゃ。」
「それは…食費要らないんですね。さすが吸血鬼。」
雄介は吸血鬼には敬語を使うようだ。僕はコーンスープを口に注ぎながら脳にメモをする。麗花は吸血鬼が来てからより怖くなったのか、今は母の布団に隠れていた。
キリアさんは野蛮ではないのに。
父さんは昨日で一気に雄介と仲良くなっていたようだ。雄介に話しかける時はいつも笑顔である。さすがに趣味の合う同年代は最高の友人なのだろう。
「息子が世話になった。このカシウスを倒した後は共に酒でも飲みましょうや。」
「ああ、信介。その時はもちろんお前の奢りで頼むぞ。」
「ああ、文無しに金を求めるほど私は貧相じゃないからな。ははは。」
笑い声が広がる部屋で。僕はキリアさんを一瞬視界に入れた。窓の前に立って外を見るキリアさん。吸血鬼の目には何が見えているのだろう。
どこかの書物で読んだことがあるが、吸血鬼は未来を未来を見ることができるという。彼女の今見ている光景が美しいものであれば良いが。
キリアさんは僕の視線に気づいたのか振り向いて僕の目を捉えた。吸血鬼の彼女の瞳は揺れていた。確かに揺れているように僕には見えた。




