敵襲
「始まったぞ。」
キリアさんは静かに言った。雄介は音もなく茶碗を逆さに置いた。目を逆さに、口を逆さの器のようにして笑った。そして言った。
「航平、準備はいいか?」
僕は雄介に頷く。そして母の書いた神話の書物を抱えて立ち上がった。麗花は食パンだけ食べて今は押し入れの中に隠れようとしていた。父さんは急いで茶碗の米をかき込んで一つ。
「父さんは何をしたらいいんだ。航平。」
僕はできる限りの笑みで父さんに向けて言った。
「父さんは最強の民族学者だから知識戦争の場合のために安静にしていてほしい。あと麗花を守ってあげて。」
雄介が言う。
「信介、お前は腕っぷしはそこまで強くないけどあんたは心が強い。妖怪は実体じゃない。正直、精神面で最強の戦闘員になる可能性もある。けどキリアさんによれば最初に来るのは実体のある奴らしい。だから仕方ないけど押し入れに隠れておいてくれ。」
キリアさんは小さな声でポツリと言う。
「そんなこと言ったっけな。雄介…か。有能な人間もいるようじゃな。」
「…面白い。」
僕はキメ顔のキリアさんを尻目にクスッと笑う。右手には分厚い母の書いた本に、左手にはユーフィニティーを抱えていた。雄介が僕のそばに来る。
「お前はまだ子供だ。力ではそんなに強くない。呪われた子供と言ってもお前は死ぬことがないだけで力が強いわけではない。だから俺の後ろに隠れてもいいんだぜ?」
ニヒリ顔の雄介にやれやれと首を振るキリアさん。そしてそれを見て笑う僕。父は押し入れで隙間から顔を出していた。キリアさんが言う。
「今から押し入れに結界を張る。くれぐれも信介君、あんたは出ないように。麗花さんは大丈夫だと思うが。」
キリアさんはそういうと印を結んで天に手を掲げた。すると白い光で魔法陣が浮かび上がる。僕も父さんも目を丸くして驚いていた。雄介が言った。
「来たぞみんな。あいつら…魔族か?悪魔みてぇだぞ。」
深呼吸をした。キリアさんがいる。それに雄介も。父さんだっているし、守らなければいけない麗花はキリアさんの結界で守られている。僕は呪いで死なない。
だから…
「大丈夫だ。」
僕の手は震えている。けれど目は死んでいない。
窓の奥。真っ黒な粒が雲のように広がっていた。真っ直ぐこちらへ来ている。終末は始まった。




