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散開怪花  作者: 暮葉
33/37

伝承

「だからあんたは僕をあんなに執拗に。」

「そうだ。本当に申し訳なかった。呪われた体が珍しくてつい、な。」

「呪いはカシウスとは無関係なのか?」

「お前の呪いは無関係だ。というより俺の仲間、もういない源蔵爺が調べた話だが…聞きたいか?」

「ああ。」


雄介はすっと横たえていた体を机に戻して湯呑みを一杯煽ってみせた。そして語り出す。


「お前の呪いは今はお前しか所有者は存在しない。けれどお前のいない時にはいたらしい、何人も。けれどそれはそれは珍しいことだったらしい。」

「どうして。」

「当たり前だ。」


雄介は湯呑みを逆さに置いて言う。


「呪いを持っていた奴でとある化け物がいたらしい。たった一人で本当の妖怪百鬼を封じて殺して、しまいには世界そのものの自己破壊さえ止めてみせたんだ。いわば人類の救世主。妖怪の英雄。そして世界を止めた世界に嫌われた存在。」

「そんな昔話があったのか。」

「昔話じゃない。」


雄介は僕の目を見てそう言った。


「昔話じゃなくて…お前とほとんど同じくらいの現代の奴らしい。というか、お前その者だという奴も俺の仲間にはいた。」

「…意味がわからない。」

「ああ、意味がわからないんだ。」


雄介は逆さにした湯呑みを爪で叩いて音を鳴らす。首にかけていたあの犬笛も、蛾の衣装もない。ただ黒い単色のTシャツを着ているだけだった。


「そしてな。調べたところによると、名前は違うが、能登まさしという男もその呪いを持っていた一人で、とある逸話を持っている。」

「聞かせてくれ。」

「そいつは並行世界の存在に自分で気づいた。」

「それは僕と同じでは…」

「お前のは吸血鬼がいて俺らがいて。最初から少しおかしかっただろ?」

「確かにな。どちらかというと初めから脱出方法を探していた感じだったよ。」

「彼、能登まさしは違った。ある幽霊の未練によって作り出された、まさし自身の理想の世界に記憶をリセットされて入り込んだんだ。」

「それって。」

「ああ、気づきようがないんだ。記憶をリセットされてるんだから。」


雄介は喉を鳴らす。僕は話に沈み込む。


「だって元の世界の記憶が無いんだぜ。そして荒唐無稽な妖怪が出てくるわけでも無い。普通の暮らし…強いて言えばクラスで自分が人気者で毎日が楽しいくらいだ。張本人もまさしの前に現れなかった。」

「それでも気づけたのか?」

「ああ。たった一つの物的証拠を頼りに自分の能力を解剖して分解して分析して。幽霊は世界は変えてもまさし自身の能力を変えたりはしなかったらしい。それで気づいた。今の自分が高校でどんな立ち位置になるか。それを突き詰めたんだ。そして気づいた。そこが並行世界だったってことに。」

「意味わからないな。ちょっと。」

「それに犯人も見つけた。特にここが意味不明なんだ。分かるはずない。」

「それでも見つけたんだろ?」

「ああ。見つけた。そして幽霊の本当の意図を見つけて成仏させてしまったんだ。」

「そいつも僕と同じくらい現代の奴なのか?」

「ああ。そうらしい、」

「源蔵爺はどうやってそれを調べられたんだ?」

「源蔵爺は一柱の神様だから。」


雄介のその言葉に喉が詰まる。何を雄介は言っている。


「神様が実在するのか?」

「ああ。お前、それくらいもう気づいていただろ?」

「お話の中の世界だと僕はずっと思っていた。父は伝承を盲信するけど、僕は伝承を読み物として楽しむだけだから。」

「でもお前、ユーフィニティーを使ってた。」

「ユーフィニティー?」

「ああ、忘れたのか。あのやり直す機械だよ、源蔵爺が作った。あ、直接そう言うふうな名前で言わなかったっけ。」

「いや、どこかで聞いた覚えがある。」

「そうか。」


雄介はそういうと湯呑みをまた爪で叩いた。麦茶を催促しているようだった。僕は静かにヤカンから麦茶を注ぐ。それを雄介は嬉しそうに待っていた。


「じゃあさ、源蔵爺は何の神様だったんだ?」

「鍛治の神様だそうだ。」

「そっか。」

「ああ。」

「で、あんたが言いたかったことは、僕がカシウスだって勘違いしてしまった理由だよな?」

「ああ。」

「その話はどう言う帰結に終わったんだ?」

「まあつまりさ、カシウスはすごい力を持ってるんだ。で、呪われた子ってのは今のこの世界には君しかいない。だから凄い力を行使できる唯一の存在で、ただの人間の君に白羽の矢が立ったんだよ。」


雄介は静かにうなずく。麦茶を美味しそうに啜りながら。


「でもさっきまでの話を聞いてると呪われた子というより、とても頭の切れる英雄じゃないか。カシウスは悪い奴なんだろ?」

「ああ、天災だ。」

「なら呪われた子はカシウスを止める役割を担う良い方だと普通に考えれば思うけど。なんで僕を悪い方のカシウスだと思ったんだ?」

「それは…」


雄介は湯呑みを机に置いて僕に告げた。


「そもそもカシウスは因果的には悪い者じゃないんだよ。ただこの世界にとってだけ悪影響なだけで。」

「それはどういう。」

「俺らのこの世界は数多ある世界の中でも特に異質なんだよ。」

「それは。呪われた奴がこの世界にだけいるからか?」

「ああ。そうだ。」

「だからこの世界が滅ぶ方が世界達としては安定するし良いことだと?」

「ああ。」

「でもその論理だとおかしいよ。」

「どうして。」

「だって、たとえ呪われた子がみんな良い事をすると仮定して、この世界が因果にとって嫌な存在だったとしても。呪われた子はみんなこの世界に生まれたんだから、この世界に必ずプラスで働くだろ?」

「…」


僕は湯呑みを一杯煽った。雄介はそれを終始見つめていた。僕は机に音を立てて湯呑みを置いた。


「でもあんたの言うとおり、カシウスが呪われた子だとするなら。」

「なら…?」

「別の世界から来た呪われた子だろうよ。」

「そうか。」

「…」


雄介はそれきり黙り込んだ。何かを考えているようだった。そして少し時間が経って雄介は口を開いた。


「違う世界から来た奴。そいつが呪われた子で、その子はこの俺らのいる世界が異質で極端だから消そうとした。それでカシウスとして俺らは認識し闘争をしている。確かに、君の言うとおりかもしれない。」

「そうだろ?」

「ああ、君は本当に勘が鋭いな。神もいるような俺らの仲間達でもそれは気づかなかった。」


その賞賛に僕は少しはがゆい気持ちを抱えながら答えた。


「まあ、ただ、若い方が常識を無視できるから。」


その返答は静かな客間に一層色濃く響いた。確実に変化の兆しがその客間で開かれていた。


僕のポケットに入ってあった紙片。過去に雄介に渡した紙片。あれは初めから僕らに教えてくれていたのだ。そして母は必ずあの本を雄介に公開するのと引き換えに僕を…

あの紙片を雄介の手に渡すように仕向けた。そうは考えられないだろうか。


何と書いてあっただろうか。

確か…

(私は呪われている いつだって死者に殺される 信介 あんたが未来を守れ。)


だったような。


僕は目の前の雄介にさらに一手押し進める。僕の額には汗が滲んでいる。震える口を動かして言った。


「その呪われた子、死者の国から来たのかもしれない。」







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