ぶち壊してよ
太陽が燦々と微笑み世界もまた微笑む中、僕はその様子を観ているだけだった。窓にもたれかかって腫れた目を擦って街を見る。階段を降りたくない。だってこの世界の僕の家族はもう…。さっき声が聞こえたのだ。四つの呻き声が数秒聞こえたんだ。それから何かが床に落ちたみたいな鈍い音が4回聞こえたんだ。分かってる。僕も今にもそうしてしまいそうだから。
「憎い憎い憎い。」
街は清い深呼吸を始めていて電車はガタゴト動いて、空には旅客機が飛んでいて、通学路には笑う子供たちが歩いている。また一つ、呻き声が聞こえた。
僕ではない誰かの。小さくて幼い呻き声。誰の声だろう。何かの声。しばらくして鈍い落下音がした。今度は硬いコンクリートの上に落ちたみたいで街に響いていた。気づいたのは僕だけ。
みんなは微笑んでいた。
僕は限界のようだ。震える指の振動は激しくなってもう制御できない。溢れる情動が僕を包んで蒸し返す。畳には程よく縄が落ちている。首にその縄を引っ掛けたその時だった。
「楽しいか?それ。」
振り向けば男がいた。見覚えのあるその顔に僕は声が出なくなる。
「あいつはこの世界が良かったみたいだな。あいつには悪いけど魂は頂いたよ。俺をここへ向かわせた駄賃だな。」
朗らかに苦笑いする青年はそうあの男だった。雄介、そのものだった。
「何驚いてんだよ。恥ずかしいところでも観られたのか?お前は恥ずかしいこの世界をさっきまでずっと観てたんだから俺にもお縄をかけたお前の首を観させろよ。」
よく分からない、とは言えない。けれども僕は首を振って彼から距離を伸ばそうと顔を引いた。
「おい、戦闘機は見たか?巨人は見たか?」
まばたけば雄介は僕を抱えていた。僕は目を丸くしてオドオドとしてしまう。
「記憶保全はされていない。ってことはただのルート取りか。めんどくせぇことしてくれたなぁ。本当に。デバックなんか頼んでねぇってのに。」
僕を抱えたまま彼は部屋のドアを神通力で開けた。窓から飛び降りないらしい。階段を下る。僕は泣き喚いた。
「あぁ?うるせぇな。お前を殺す奴はもういねぇよ。安心しろ、もうこの世界は不要だから。」
首を左右に振りながら涙をまき散らす僕の泣き声は雄介の耳に届かない。僕を抱えたまま一階のリビングの扉を開ける雄介。雄介に抱えられた僕は家族を見た。静かな僕の家族。まだ寝てるのかな?冷たいね。
声にもならないし涙も出てこない。ただ【ミテシマウ】だけ。雄介はそれを踏み越えて玄関に向かった。重い木製の引き戸を神通力で開けた雄介。僕らは燦々と輝く太陽の元へ出た。
僕を下ろした雄介は腰に手を置いて一つ。
「さぁ、とりあえず元の世界に戻るか。」
未練はない。そうじゃないと話は進まないから。




