夜明けと日の出
「なぁ…」
「これが…お前の望んだ世界なのかよ…」
朦朧とした意識は僕の脳をしばらく乗っ取っていたようだ。けれどもそれは終わりを告げ、つまるところ卒業する。僕は自意識という意識によって再び稼働する。それこそが目覚めなのだろう、僕にとっても、このせかいにとっても。
布団から顔を出して体も出した。4月という気象状態には似つかず薄着のパジャマでは悲鳴を上げるほどの寒気であった。冷気が部屋に充満していた。
顔と体を布団から出していた僕はもう一度布団という大きな沼に沈む。沈んで、くるまって生暖かい暖気に身を包む。どうやら目覚めはもう少し後なのかもしれない。
ふと頭に悪感がよぎる。それは布団のなかにいても逃れられないことのようで、同時にくるまった僕の腕を震えさせ口を乾燥させるものだった。乾いた口に水気を与えるためには水が必要だが、それは早朝の自室にこもる僕が布団に入ったままで出来ることではない。そんな不可能な事こそが僕の頭によぎる悪感の正体だ。
つまるところ不安を感じていたのだ。明確に僕が苦い顔をしているわけでも、歯が痛いわけでも、関節痛がするわけでもない。どちらかと言うと少し肌寒い教室や生ぬるい湯船、夜更かししてしまった時の罪悪感に近いだろう。
僕は震える手を抑えようと別の手で覆う。けれども嫌な感触は無くならない。乾燥した口を潤させようとつばを飲み込む。けれどもどこか違う気持ちになる。
何かで代用したり何かで隠してもそれは解決ではないみたいに。解決したと言われても、少しも納得できない時だって多々あるだろう。解決したと大仰に振る舞う輩を睨んでしまうそんな時が。今の僕はまさにそれであった。
これが解決だろうか。これが正しいのだろうか。震える冷気におびえて布団にくるむ僕。乾燥する口のためにつばを飲み込む僕。震える手を押さえ込んで隠す僕。
全部が全部何か違う。
あの日、あの男と契約を結んで得たこの現在。それは確かに尊いもので夢のようなことなんだけれど。
でも昔の僕のには、それは夢であってほしいと思っていたようで、そして夢は夢だから価値があるのかもしれないと今の僕は思う。
「だから…」
ついに僕は生ぬるい布団にガンを飛ばした。震えていた腕で布団を蹴散らした。荒く顕出した僕の体と顔。陽光に照らされても僕は瞬きをしない。僕は確信した。
僕が求めていたものはこれではないと。そもそも僕は現実に何も求めていないのだと。
それは深く何かを睨む僕の顔が証明している。
この幸せな生活は夢のようなことで、それこそ夢なのだと。その夢を現実にしてしまえばつまらないのだと。もう状況だけで満足してしまっているのだと。
だから息を荒くする僕の顔はこんなにも鬼の形相をしている。
やり直したいと。あの世界こそが現実なのだと。ここはいささか現実と呼ぶには居心地の悪いところであると。
そして最後に、僕にとって幸せは夢でしかなくて、そんな夢を僕は特に大事だと思わっていないこと。
そばに投げられていた書物を眺めてそう思った。それはカシウスの木という題名でどうやら手書きのようであった。
母の書く文字は汚い。それはここでも同じようだ。だから僕は次の一歩が見えるのだ。夢から起きる方法とやらを。
復活です




