契り
暖かな風が頬を撫でることで僕は目を覚ました。新緑の草原を駆ける少女が見える。陽光を浴び、麦わら帽子を被ったその少女は僕の元へ駆け寄って僕の顔に影を落とした。それからニンマリと笑って言った。
「お兄ちゃんも遊ぼ。」
綺麗で透き通った鈴のような誘いに僕はハッと呼吸が止まったかのように顔を硬直させる。訝しげに僕の顔を見つめるその少女は手を差し伸ばあう。僕はその手を取ってゆっくりと起き上がった。金木犀の香りがどこからともなく香る、そんな暖かな春の日に僕と妹は笑い合って遊んだ。
帷が降りると僕たちはゆっくりと家に戻った。玄関の扉の鍵は空いていて、妹はガラリと扉を引いて中へ入る。それからただいまと妹が言うと、まもなく廊下の奥からおかえりと声が聞こえる。靴を乱暴に脱いだ妹は靴下のまま廊下を走る。ダンダンと振動が家中に響いて妹の背中は見えなくなる。僕は静々と靴を揃えてリビングに入った。
「おかえり、航平。」
台所で炊事をする母が言った。僕は母の背中をまじまじと見つめてああ、と答える。懐かしい母の匂いを感じた。妹は早々にお菓子を広げて一人宴会を始めていた。
「今日は何かあったの?」
母はニコニコと僕に尋ねる。特に何も、と答える。母は中途半端な返事をして鼻歌を歌い始める。僕は手を洗って水を飲もうと食器棚からコップを取り出した。蛇口からコップに水道水を注ごうとする僕の手に、ピシャリと手が当てられる。母の手だった。
「そこにヤカンがあるでしょ。勿体ぶらずにヤカンのお茶を飲みなさい。」
母の手は温かった。天井の電灯は煌々と部屋を照らしている。ヤカンのお茶は暖かくて味があった。僕は顔を歪ませて目尻をこする。手の中に注がれたお茶を一点に見つめ、突っ立ったまま僕はそれを飲む。
「何、お茶飲んで感動してるの、ご飯できたわよ。」
母はふふふと口を手で覆いながら笑う。妹は僕と母を交互に見上げて困惑していた。父は奥間から戻ってきてリビングに入ってくる。クスクスと笑いながら父が僕に言った。
「航平、今日はめでたいぞ、祝いだ。」
母は手で口を覆って微笑む。妹はキャッキャと声を出してはしゃぐ。父は僕に意味ありげに目配せをしてくる。僕は山のような父の肩越しに一つの影がついてきているのに気づいた。父が止まるとその影も止まる。父が僕に近づくとその影も小さな足音と共に動き出す。父が僕の目と鼻の先まで来た時、その小さな影の正体を知った。その影は疑いようもなく、耳まで真っ赤にした古鳥麗華であった。
名前整理します
父が信介
母が麗花
妹が有希
同級生の女の子が麗華
主人公が航平
父と母に関わりのありそうな不思議な人物が雄介
です!




