屹立
もしこの世の全てが夢であったならどんなに良かったか。天井の電球に目を凝らして呟く。天井へ押し上げた腕は何を掴むこともない。おでこに乗せた腕に力は入っていない。僕はカチカチと律動する掛け時計の音を聞きながら自室の布団で項垂れていた。
8月のある朝。
間違いなくあの夢は夢でしかなかったのか。父に殺されかけた夕方、雄介が僕を襲おうとした夜、母に助けられた朝。あれは紛れもない夢物語だったのだろうか。ポケットに手を突っ込めば今も紙片の感触がある。僕の指に残ったその感触は僕の心を荒ぶらせる。
1ヶ月以上が過ぎ去り覚えている内容も些細になったこの時、わざわざ考えること自体に意味があるのだろうか。
けれども胸につっかえた針が不快で僕は何度も胸を触る。けれども針は刺さったままで不快さは終わらない。
気持ちの問題だ、これは。
母はあれを呪いと言い聞かせて、あの夢の中では権利だと笑って言った。
そこにどんな違いがあるのだろう。
僕は目線を落として時計に焦点を合わせる。長針がゆるゆると回転していた。短針は動かない。
夢と現実。父と僕。母と僕。雄介と僕。
周り回る言葉が僕を彷徨わせる。目がぐるぐる回って頭が酔った時、玄関から呼び鈴が聞こえた。それから急かす声を聞く。
「おい、信介はいるか?」
それは紛れもなくアイツの声で、この停滞を砕く怒号であった。




