時流
太陽が上がった朝。僕はうっすらとだが目を開けたまま夜を過ごした。太陽が上がるのは一瞬で上がってからは長かった。僕は体を揺らしながら徐々に体を起こした。見えるのは自分の部屋。机には古文書が置いてあって、本棚にはさまざまな伝承が収められている。そんな部屋。昨日父が訪れた部屋。
昨日のことは現実だ。
それは隠しようもない事実で、だから僕は今もこうして苦い顔をしている。部屋を出て階段を下るとじきにリビングが見える。四脚の椅子が無造作に置かれ一枚板の天板が机の役割を担っている。いつも用意されているはずの朝食も無く、僕は一人コップに水道水を注いで煽る。
「苦い…」
いつにも無くカルキ臭を感じて思わず舌を出す。それから洗面所で顔を洗う。冷水は僕の瞼を冷やす。じきに焦点が定まり、体の感覚が鋭くなる。僕は一人椅子に座る。蛇口から滴る音以外無音の沈黙の朝。僕は天井を見上げた。
大きな円形の電灯。明かりのついていないそれはまるで満月のようで、けれども人口味を感じさせる冷たい代物であった。所詮、偽物でしかない。そう僕は電灯に思う。
「40分か。」
部屋の隅にかけられた掛け時計を見てそう呟く。しばらくして椅子から立ち上がる。今日は父は降りてこなかった。だから僕は父の寝室の前で立ち止まる。呼吸の音すら聞こえない。初めから空き部屋だったような空虚な感覚。僕の伸ばした腕は虚空をかすってだらける。だからドアノブを触れたのは多少の時間を経てからだ。冷たい金属のノブに手の熱が奪われる。父に気づかれないように慎重にドアを開いた僕は顔を中に突っ込んだ。俯いてまるまった影が一つ。静かに震えていた。
なんで僕は…
そっと扉を閉じてから僕は学校に向かう。
廊下を歩いて教室に入る。それから椅子に座って静かに書物を開く。しばらくして昼休みが始まる。ここ厳島高等学校を強制収容所と呼んだ男がいるかもしれないし、それが僕なのかもしれない。けれどもここは流れる時に身を任せるだけの船のように思えた。僕の目にはガラスが被さっていた。だからどうにも僕はここで笑うことはできない。
体育館の裏のベンチに座って弁当を開く。木々を飛び交う雀を見やり大空を飛翔するカラスを見て、僕はそんな船で時間を過ごした。
こんなことを…
…やっている場合ではないのに。




