表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/24

害獣再び

 放課後になり、校門前でミチコさんが来るのを待っていた。時刻は午後三時半。夕方かと言われると、微妙な時間だ。現に、十分待ってもミチコさんが現れる兆しが一向に無い。


「……ちょっと歩くか」


 家に帰る途中で会うかもしれないし、そうじゃなくても家に居ればいずれ帰ってくる。あの財布の中身、全部使われてなければいいけど。


 道中、病院から不意に出てきた人とぶつかった。


「あぁ、ごめんなさ―――ッ!?」


 ぶつかった相手は、アイツだった。確か、ヨウスケだったか。


「……あぁ、悪かったな」


 意外にも、ぶつかった僕に突っかかる事は無かった。それどころか、暗い表情でその場から一歩も動かなくなってしまった。


 病院から出てきたという事は、何処か怪我を? もしくは、彼じゃない誰かが怪我をしたのだろうか?


「……なんだ? まだ何か用か?」


「い、いえ。それでは……」


 彼の様子が少し気掛かりだが、友人でもなければ気遣う相手でも無い為、その場を後にしようとした。




 その時だった。


「ッ!?」


 胸騒ぎがした。噴火しようと湧き上がるマグマのように、胸の内から熱が湧き立つ。この感じ、変身した時と同じ感覚。


 つまり、それが意味する事は!


 予感に気付いたのと同時に、何か巨大な物が降り立ったような激しい揺れが起きた。呆気なくバランスを崩した僕とは違い、アイツは血相を変えて病院に戻っていった。アイツの事が気になるわけじゃないけど、何が現れたのかを確認する為に、僕も病院へと駆けていった。


 四階のとある一室の病室に、アイツは入っていった。


「お袋! 無事か!?」


「ヨウスケ! またこの地震だよ!!」


「大丈夫、大丈夫だよ! 俺がついてる! ……あ、お前! なんでお前もここに!?」


「えっと、なりゆきで」 


 昨夜の事がトラウマになったのか、アイツの母親は酷く怯えていた。そんな母親をアイツは力一杯抱きしめてる。本当にコイツが、あの問題児と同一人物なのだろうか。


 いや、どんな悪人でも、大切な人の一人や二人がいる。それが自分の母親だったわけだ。


 そうか、だからか。コイツは、彼は、母親を第一に考える子供なのか。他人に意地悪をしているんじゃなく、母親第一を不動にしたいだけなんだ。生粋のマザコンなんだ。


「ッ!?」


 二人から視線を窓の方へ移すと、この病院の先に昨夜のような化け物が現れていた。まだ夕方だから、今度はハッキリと姿形が分かる。


 しかし、その姿形はとても生物とは呼べない奇怪な見た目をしていた。太い人型のようだが、頭部が無い。胴体は模様なのか、あるいは巨大な穴が空いているのか、捻じに捻じれた渦がある。鳴き声はピーッと鳴る電子音のようだ。


 化け物の動きは非常にゆっくりだが、どうやらこの病院に向かって歩いてきている。


「二人とも、逃げて!! あの化け物は真っ直ぐこっちに向かってきます!!」


「お、おう! お袋! 逃げるぞ!!」


「い、いや! イヤァァァァ!!!」


「お袋!! しっかりしろ!!」


 駄目だ。怯えて自分の息子の声さえ届いていない。彼も母親を置いて逃げる様子も無い。


 僕が、戦わないと。


「……でも」


 ミチコさんがいない状態で、変身出来るのだろうか。第一、変身する方法だって、よく分かっていない。


「お袋……いつも迷惑かけてごめんな……! これからは、迷惑かけないようにするからさ……!」


 尚も怯え狂う母親に対し、彼は優し気に微笑みながら涙をこぼした。


「……約束するか?」


「は……?」


「もう母親を困らせないと、約束出来るかって聞いてるんだ!!」


「……ああ。もう俺は、お袋を悲しませるような事はしない!」


 彼の目、声、表情に、嘘偽りはなかった。


 そんな彼を目の当たりにして、何故だか僕も奮い立った。


 そうだ。何の力も無い彼でさえ、誰かを守ろうと必死になってるんだ。あの化け物に対抗出来る力を持ってる僕が、ああだこうだと悩んでる場合じゃない!


「やってやる! 戦って、守ってみせる!! 変身!!!」 


 握り締めた右拳で、自分の左胸を思いっきり叩いた。胸の内に湧き立つ熱が解放された感覚がすると、それは一瞬で全身に広がり、僕の体を変身させた。


 五階建ての病院が小さく見える。自分の体を見た限り、どうやら変身出来たようだ。


 彼は四階の窓から身を乗り出して僕を見上げていた。最初こそ驚いているようだったが、次第に笑みを浮かべ、大声を上げて喜び始めた。


 そんな彼の期待を頷いて受け取り、化け物の方へ振り返った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ