朝ご飯は大事
朝、目を覚ますと床に寝転んでいた。確かにベッドで眠りについたはずなのに。
ベッドの方へ視線を向けると、そこには非常に寝相が悪いミチコさんが豪快にいびきをかいていた。僕の部屋のベッドを勝手に使われてる。しかも先に眠っていた僕を退かして。
「……起きてください、ミチコさん」
「んん……しょ~ねん、次は右足お願いね~……」
「どんな夢見てんだ? ほら、ミチコさん! もう朝なんですから起きてください!」
ミチコさんの肩を揺さぶると、それに合わせて胸も揺れた。サイズは合ってるはずなのに、その一部分だけがパツパツだ。その所為か、下着のラインが見えてしまっている。
僕のベッドを勝手に使ったんだ。枕も涎で汚してしまっているし。
だから、少しくらい触っても―――
「朝っぱらからお盛んで」
「ッ!? 起きてたんですか!?」
ミチコさんは勢いよく体を起こすと、僕の後ろ髪を引っ張って、自分の胸に僕の顔を押し込んだ。顔を包み込む大きさと適度な柔らかさ。ほんのり香る汗の臭いは、不思議と嫌な臭いじゃない。
「胸ばっかりに興味示しやがって。尻にも関心を向けろ!」
「―――プハァッ!? ど、どういう怒り方ですか!?」
「よし! 朝飯朝飯! ほら少年! オッパイに埋めてやったんだから、アタシを下まで運んでけ」
「ちょっ―――グォッ!?」
化け物と戦っていた時、自分よりも何倍も重い相手と競り合っていた。その力は、人間に戻った今は無い。それにミチコさんと僕の背の高さを考えれば、背負う事なんて不可能だ。
背に乗るミチコさんを引き摺りながら階段を下りてリビングへ向かうと、父さんが朝食をテーブルに並べていた。
「おぉ、おはよう! ミズキ! それから……えっと……」
「オッハ! 少年のパパさん!」
「あ、おはようございますぅ……」
「ね、ねぇ。もういいですか……?」
「まったく。非力な少年だな」
ミチコさんは僕の頭を雑に撫でた後、椅子に座って誰よりも先に朝食を食べ始めた。
朝からドッと疲れていると、僕の傍に来た父さんがコッソリと話し始めた。
「なぁ、ミズキ……」
「なに?」
「彼女の事を考えて、今朝は洋食風にしてみたんだけど……」
「洋食風って。トーストにジャム乗っけたのが?」
「あんこバターだと日本風だろ……!」
「そういう問題じゃないと思うよ? それより、父さん大丈夫なの?」
「え? ……あ、そうだった! 今日は朝から会議あるんだった! いかんいかん! いかんぞー!」
父さんは慌ただしくトーストを食べながらネクタイを締め、椅子に掛けていたスーツを着てカバンを持った。
「それじゃ父さん行ってくるね! あの、えっと、あ~……!」
「パパさんいってらっしゃーい」
「あ、はい! いってきます! オッシャ!! 今日も息子の為に働くぞ!!!」
相も変わらず朝から気合十分で、父さんは仕事に出掛けてた。
椅子に座り、コップに入ったお茶を飲んでいると、父さんが点けっぱなしにしていたテレビでニュースが流れた。
『昨夜、謎の巨大生物を目撃した方が続出したようです』
「ブフゥッ!?」
「どしたの少年? ルーティン?」
「毎朝お茶噴き出すルーティンがあってたまるもんですか! そうじゃなく、ニュースですよ! ニュース!」
「ほぇ?」
『目撃した方の中で、巨大生物を撮った方の映像があります。ご覧ください』
テレビに映る二体の巨大生物の映像。
一体は僕が倒した化け物。
となれば、もう一体は変身した僕?
「滅茶苦茶悪そうな見た目してる……」
「アッハッハッハ! こりゃどっちが悪者か分かんないね!」
その後、これはよく出来た映像作品だと結論付けられ、呆気なく次のニュースに移された。変に盛り上げられても困るが、こう簡単に流されてしまうと、僕の頑張りを馬鹿にされたような気分になる。
それにしても、あの映像に映っていた僕の姿。夜だったからハッキリと映ってないけど、滅茶苦茶悪そうな顔してたな。姿形が人間っぽいのも相まって、悪人感が凄い。
「僕、あんなのに変身してたんですね……」
「カッコイイじゃん」
「いや、そう思う人もいるかもしれませんが、それは物好きって連中ですよ」
「ふ~ん……それよりさ。あの映像、誰が撮ったんだろうね?」
「誰って。そりゃあ、近くに居た人でしょ?」
「それにしたって近過ぎやしないかい? 映像の感じからして、まるでその場に害獣が現れる事や、君が変身して現れるのを分かってたみたいじゃない」
言われてみると、確かに偶然カメラを構えたにしては、ベストポジション過ぎな気がする。いくら巨大だからって、町からだと小さく映るはず。近くで撮ったとなれば、夜中にあの田んぼ道にいたわけだ。
偶然、なのだろうか。
「……そういえば、ミチコさんは化け物が現れるのをあらかじめ知ってましたよね?」
「アタシも同じ事考えてる。けど、ありえない話なんだよね」
「どうしてですか? ミチコさんのように、あそこに化け物が現れるのを知っていたミチコさんの同類の方がいたかもしれませんよ?」
「それがありえないんだって。アタシみたいに人間の姿をしてる奴は他にいない。そもそも、同じ姿をしてる害獣はいないんだよ。だから、君の考えは間違ってる」
「じゃあ、偶然……なんですかね?」
「う~ん……よし! 今度考えよう! 今大事なのは、しっかり飯を食べる事だ!」
ミチコさんはトースト半分を一口で食べ、口一杯に詰め込んだトーストをコーヒーで流し込んだ。ラーメン屋でもそうだったけど、トーストも豪快な食べ方をする人だ。




