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ファーストキス

 家に帰る途中、何度もパトカーとすれ違った。化け物は倒せたけど、戦った跡は色濃く残ってる。ここからは警察の出番だ。


「……それで、いつまでついてくるんですか?」


 僕の後ろをずっとついてくる彼女に聞いてみると、彼女はニッと笑った。


「帰るんだよ。君の家に」


「自分の家に帰ってください!」


「これから長い付き合いになるんだよ? 次にいつ害獣が現れるかも分からないし」


「え? まだ出てくるんですか!?」


「当たり前でしょ。今回のは来るのが分かってたけど、次からは突然だから。となれば、アタシが近くに居た方が好都合でしょ?」


「また、あんな化け物が……」


 正直言って、化け物に勝てたのはたまたまだ。たまたま全部が上手くいって、被害を最小限に抑えて倒せた。次も同じようになるとは思えない。もっと被害は出るかもだし、負けるかもしれないし、死んじゃう人だって。


「……どうして、僕なんですか?」


「う~ん。なんとなく?」


「なんとなくって……もっとちゃんとした理由であってくださいよ! 下手をすれば、死人だって―――」


「でも、楽しかったでしょ? 思いっきり戦って勝ててさ」


「……分かんないですよ。ただ、今はホッとしてるだけです」


「そういうとこだよ」


「え?」


「どうして害獣が暴れてるか分かる? あれはね、自分の力を制御出来ず、振り回されちゃってるからだよ。だから暴れるんだ。それに比べて、君は力を完璧とは言えずとも使ってみせた。また人間の姿に戻れたのも、力を上手く制御出来ている証拠」


 彼女は僕に歩み寄ると、何の気なしに顔を近付けてきた。


 唇に柔らかい感触がある。視界は彼女で埋め尽くされて、女の人から香る良い匂いがする。


 彼女は僕から顔を離すと、雑に僕の頭を撫で回した。


「これから頑張ってね、小さなヒーロー!」


「は、はい……え? は、はぇ!? い、今、キキキ―――」


「あらあら少年ったらあらあら! お姉さんのチューにドキドキしちゃったの? なら害獣を倒す度にご褒美でチューしたげる! ニャハハハ!」


 僕のファーストキス。あんな見た目だけの女に奪われたのか。嬉しくないわけじゃないけど、素直に喜べない初めてだ。


 それから結局彼女は僕の家までついてきた。コンビニに行くと外に出た息子が、見知らぬ女性を連れて帰ってくれば驚く。それに加えて僕が変身する力を得たとか、彼女は人間じゃないとか、化け物と戦ってきたとか。真実を全部打ち明けてしまえば、驚くだけじゃ済まない。


 ヒーロー物が好きな父さんの場合、案外テンションが上がるかも?


 いや、いくらオタク気質の父さんだとしても、受け入れがたい真実だろう。信じる信じないはさておき、どっちにしろ面倒な事になる。


「あの、入る前に約束してくれませんか?」


「何を?」


「その、僕とアナタ、それからあの化け物。秘密にしておいてください」


「え~。じゃあどう理由付けるのさ」

  

「それは―――」


「ええい面倒! ぶっつけ本番じゃー!!」


「あ、ちょっと!」


 僕が止めるより先に、彼女は玄関の扉を開けた。タイミングが良いのか悪いのか、ちょうど廊下にいた父さんが僕達を目撃した。父さんは僕が帰ってきた事に一瞬喜ぶと、隣にいる見知らぬ彼女を見て、すぐに眉をひそめた。


「えーっと……お帰り、ミズキ」


「た、ただいま……」


 気まずい。父さんは下手に彼女について言及出来ずにいるし、僕はどう説明をすればいいのか分からない。


 すると、彼女は僕の肩に腕を回し、グッと自分の方へ抱き寄せた。


 そして宣言した。


「親父さん! この子、アタシの物だから!」


「ウェッ!?」


「うぇっ!?」


 父さんも僕も、同じように驚いた。


 父さんの場合、急に息子を自分の物だと宣言した彼女の頭のおかしさに対して。 

 

 僕の場合は、あれだけ自信満々に玄関の扉を開けておいて、ほとんど事実を言ってしまっている彼女の無計画さに対して。


 数秒ほど静寂の時間が流れると、父さんは恐る恐る返事を返した。


「おめでとう、ございます……?」


 マトモな人間は僕しかいないようだ。

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