ヒーロー
「―――なっていいわけないだろ!!!」
立ち上がり、突進してきた化け物を受け止めた。吹き飛ばされずに受け止められたが、数センチか数メートル後退りしてしまった。足の裏のすぐ先に、アイツの家があるのが何となく分かる。二人の安否確認をしたい所だけど、今も化け物は僕を押し切ろうとしてくる。
アイツがどうなろうが、僕には関係ない。死んだって心は痛まない。
でも、アイツの母親まで巻き添えを喰らうのは違う。あの人は何も関係ない。巻き添えに遭う可能性があって、僕にそれを止める力があるのなら、この状況を打破する為に力を尽くす!
だから、受け止めるだけじゃ駄目だ。
「ぅ押し返ぇぇぇぇす!!!」
不思議だ。非力な僕は、重い物を一人で持てる力も無ければ、無理だと分かったらすぐに諦める根性無だった。
なのに今は、この化け物を絶対に押し返せる自信―――いや、押し返さないといけない使命感で力が湧き上がる。
「うおぉぉぉぉ!!!」
一歩。また一歩と化け物を押し返していく。
すると、先に化け物の体力が切れた。その隙に化け物の顎に膝で攻撃し、浮き上がったその巨体を押し飛ばして転がした。
(今だ!! 今度こそ!!)
「決める!!!」
胸の内に溜まっていた熱いエネルギーが左右の腕に流れ込んでいく感覚。
今!!
「プラズマ光線!」
勢いよく両腕を突き出すと、両腕に纏われていたエネルギーが螺旋を描き、収束した瞬間に光線となって放出された。
光線を浴びた化け物は断末魔を上げながら爆散した。ドッシリと圧し掛かる疲労感で、化け物を倒した達成感を感じる余裕なんか無かった。
(お疲れさん)
彼女は僕の頑張りに見合わない軽い口調で、化け物を倒した僕をねぎらった。別に褒めてほしいわけじゃないけど、訳も分からずやらされた事を成し遂げたわけで、もう一言くらい欲しいところだ。
意識が朦朧とする中、最後の力を振り絞るように後ろへ振り返った。
そこには、僕を見上げて手を振るアイツとアイツの母親がいた。体の大きさの違いで、二人の顔は丸に点があるようにしか見えない。
だけど、どうしてか、二人とも笑顔な気がした。
『ミズキ。明日もパパと一緒にヒーローのテレビ観るの?』
『うん! 僕、プラズマン好き! 大きくなったらプラズマンになって、パパとママを守る!』
『あら! ミズキが私達を守ってくれるの? それなら、毎日一杯ご飯食べて、勉強も運動もしっかりやって、一人で早起き出来るようにならないとね!』
『出来るよ!』
『ウフフ。そうね。ミズキならきっと―――』
懐かしい夢を見た。いつの時かは分からない。父さんと一緒に観ていた【プラズマン】の番組にハマってた時期。僕も父さんも早起きが出来なくて、結局いつも母さんが僕らを起こしてくれたんだ。それで三人でソファに並んで座って―――
「あ、起きた?」
「……母さん?」
「あらヤダ少年ったら! アタシの事をマンマなんて!」
「……あ」
しまった。寝ぼけて母さんだなんて口に出してしまった。よりにもよって、母さんとまるで違うこの人を母さんだなんて!
「忘れてください……!」
「マンマ」
「馬鹿にしてますね! まったく、アナタって人はどうしてこう―――」
「頑張ったね、少年」
「……ズルい人だ」
こうして誰かにおんぶしてもらうのは、いつぶりだろう。滅茶苦茶な人だけど、この人におんぶされてると、不思議と落ち着く。優しい気分になるっていうか、安心するっていうか。
「ねぇ、少年。どうしてプラズマ光線なのさ?」
「……昔、父さんと一緒に観てたプラズマンってヒーローが使ってた必殺技」
「少年の昔っていつさ。ガキが昔なんて言葉使うんじゃないよ」
「またガキって……! も、もういいです! もう降ろしてください!」
「無理しなさんな。歩くどころか、立つ事さえ出来ないくらい疲れてるでしょ」
「……あの化け物、何だったんですか?」
「害獣。壊す事しか頭に無い連中。君達人間は、自分達の住処を脅かす存在に必ず害を付けるでしょ? だから害獣」
「君達?」
「そう。アタシも害獣だよ」
「……降ろしてください、降ろして!!」
「あー、もう! 暴れないで! 大丈夫大丈夫、アタシは害獣は害獣でも、良い害獣だから」
「そういう事じゃなく! アナタもアイツらみたいに化け物なんですよね!?」
「水臭い事言わないでよ~。君もアタシらと同じになったんだからさ~」
「……は?」
「当然じゃん。ただの人間が、アタシらに勝てるはずないんだから。君は気付けなかったけど、変身した君の姿は、他の連中から見ればコッチ側と同類の姿をしてるんだよ」
淡々と事実を話す彼女。その声色には僕を騙す下心は無く、かといって同類になった事を喜んでるわけじゃない。ただ説明をしただけ。それが僕にとって、酷く冷たく感じた。
「言ったじゃん。君の命はアタシの物だって」
「……僕は、人間じゃなくなったんですね」
「そこ、気にする? 見た目が人間と違ったって、君が人間の味方な事に変わりない。壊すばかりの害獣から、君は人間を守ったんだ。落ち込む事も、恥ずかしがる事なんてない。君はみんなのヒーローだ」
僕が、みんなのヒーロー。素直に受け取れない。僕なんかがヒーローだなんて……ん?
「あ!!」
「どしたの?」
「ラーメン屋! お金払ってない!?」
「アッハハハ!! そんな小さい事気にしない気にしない!」
「大きい事ですよ! あのラーメン屋に連れてってください! 騒動に乗じて食い逃げなんて、みっともないよ!」
「律儀だね~。じゃあ行ったついでにラーメンと―――」
「アナタにはもう奢りませんから!!!」
その後、ラーメン屋に払いに戻ると、ラーメン屋のオジちゃんは僕達が無事な事が大事だと言って、食事代をタダにしてもらった。見た目は怖いけど、凄く良い人だ。申し訳ないから、今度また食べに来よう。




