表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

腹ごしらえ

【君の命は私の物】


 僕は会ったばかりの女性にその宣言と共に首を絞められた。最初に声を掛けられた時に気付くべきだった。彼女が醸し出す狂気に。


 一心不乱。まさにその言葉通り、僕は彼女から逃げようともがいた。彼女は予想していなかったのか、呆気なく僕の首から手が離れた。しかし呆気には取られていなかったようで、そのまま逃げようとした所を掴まえられた。


「何処行くのさ、少年。君はアタシの―――イデー!?」


 僕の腕を掴んでいた彼女の手を思いっきり噛み、今度こそ逃げる事が出来た。


 走って。

 走って。

 馴染みのある道まで行き着いた。


 今日は走ってばっかりだ。まだほんの少しだけ寒さがある春の夜なのに、全身汗でビッショリ。父さんにどう言い訳しよう。


 それにしても、あの人。もったいない人だったな。顔もスタイルも良いのに、言動がトチ狂っていては宝の持ち腐れ。見ず知らずの僕みたいな子供に声を掛けた事から察するに、マトモな友人がいないんだろう。


「だ~れがボッチだ」


「ッ!?」


 肩に回された腕にギョッとした。隣を見れば、あの女性がいつの間にか立っていた。僕よりも暑苦しい恰好をしてるのに、汗一つかいていない。逃げた僕を追いかけてきたというのに、呼吸は酷く冷静。


 フラッと追いかけて、ポッと現れた。


 馬鹿みたいな表現だけど、そうとしか思えない異質さがあった。


「アタシのキューティーな手を噛んじゃってさ。お姉さん、君に傷物にされちゃったよ~!」


「……僕、お金持ってないです」


「えぁ? お金? なに、ラーメン奢ってくれるの少年!? やっぱり君は良い子だ! アタシの眼に狂いはなかった!」


「ち、違くて―――うわっ!?」


「さぁさ、善は急げ! ラーメンとお酒がアタシ達を待ってるぞー!」


 彼女は勝手に話を進めて、勝手にラーメン屋へ連れて行った。ガッチリ首に腕が回ってる所為で動けないし、とんでもない力で引きずられてる。何より、左側の顔に押し当てられている胸の感触が、僕の体を硬直させていた。


 ラーメン屋に着くと、彼女は席につくなり威勢よく注文した。


「タイショー! ラーメン二つと餃子とビール二杯とチャーハン! あと灰皿もちょうだーい!」


 よくも堂々と注文出来る。ここはチェーン店じゃなく個人店のラーメン屋。昔の人はここが一般的なのかもしれないけど、僕はちょっと怖さがある。客だって、新聞広げた爺さんや、大工の人ばっかり。落ち着かないな。


「少年。君、歳は?」


「……十五」


「十五? 十二の間違いでしょ」


「……アナタこそ、こんな事して、大丈夫なんですか!?」


「こんな事って?」


「未成年を強引に連れ回してる事ですよ!」


「大丈夫大丈夫。アタシ、永遠の二十歳だから」


「それでもギリギリアウ―――って、とにかく! ラーメン食べたらもう関わんないでください!」


「反抗的だね~。お姉さん好きよ、そういうガキ」 


 ガキ、って。僕は嫌いだよ、この……くそ、無駄に顔とスタイルが良い所為で悪口が思い浮かばない!


 それからすぐに注文した物がテーブルに並べられた。三人、いや四人前か? ラーメン一杯だけ僕の手前に置かれて、あとは全部彼女の方に置かれている。あれ全部食べるのか。


 食べてる。昔の漫画みたいに、豪快で忙しなく。餃子って単体を少しずつ食べるんじゃなくて、麺と一緒にすするものだったんだ。


 あっという間に食べ終えると、食後に取っておいたのであろうビール一杯を一気飲みし始めた。


「ング、ング、ング……ブハァァァ! あぁ、腹一杯! タイショー! ビールおかわり!」


「まだ飲むんですか!?」


「君こそ食べるの遅いよ。早く食べないと、この後もたないよ?」


「この後? この後って?」


 彼女はビールのおかわりを受け取ると、片側の口角を吊り上げて笑った。


「化け物退治だよ」


「……はぁ?」


「これからこの近辺にデッカイ化け物が現れるからさ、それを君がやっつけるの」


「……酔ってます?」


「失礼な! アタシは今後長い付き合いになる君に親切心を見せたってのに!」


「いや、だって―――」


 その時、轟音が響いた。巨大な質量を持った何かが地面に落ちたような轟音。店内は酷く揺れ、色んな物が落ちる音が続く。立ってる人はもちろん、座ってた人達も椅子から転げ落ちるほどの揺れだ。


 ただ一人だけ。僕の目の前にいる彼女だけは、確信めいた笑みを浮かべて微動だにしていなかった。


「少年!!」


「な、なんですか!?」


 彼女は立ち上がると、僕に力強く指をさした。

 

「ヒーローになる時だ!!」


「……はぁ!?」 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ