君に憧れを見た
戦いが終わり、変身を解いた後、僕はマトモに立ってられなくなっていた。尻尾の攻撃を喰らった背中と左側の横っ腹が痛くてしょうがない。曲げてる状態でも痛いが、姿勢を真っ直ぐにしようとすると激痛が走る。ダメージに隠れて目立たないけど、初めて使った技の反動で左手から前腕までの感覚も麻痺してる。
遠くから聞こえてくる様々なサイレンが町の被害を物語ってる。化け物が暴れて壊された建物も、怪我をした人も多い。
僕がすぐに変身しなかった所為だ。早朝からランニングなんかしなければ、すぐに変身して被害をもっと抑えられた。
これで三体目。巨人に変身して化け物を倒しても、達成感や幸福は無い。ただひたすら安堵するばかり。
だが今回は、後悔と不安しかない。
こうするべきだった、ああするべきだったという後悔。
今回の戦いで負った怪我が次の戦いに影響するかもしれないという不安。
ヒーローはいつだって誰かの為に戦う。何の見返りも求めず、救えた事を何よりもの誇りだと称し、そうしてまた戦う。幼い頃は、そんなヒーローに、プラズマンをカッコイイと思っていた。
でも今は違う。次々と現れる敵と戦い続け、傷を負い続け、何の見返りも求めず、戦い続ける事に馬鹿らしさを覚える。だってこんなの、奴隷みたいじゃないか。
『ミズキ』
母さん。僕はもう―――
「ミズキさん!!」
「―――イダダダ!?」
「す、すみません!! そうか、変身を解いても回復するわけじゃないんだ」
「うずくまってる状態から察せられませんか……!」
「いや、ただ疲れてるだけかと。とりあえず病院まで送ります! さぁ!」
「だから今は触らな―――イデテテテ!?」
レンさんは痛みで叫ぶ僕に「頑張れ!」と無茶な励ましをしながら車に運び込んだ。
病院へ向かう途中、町の様子をうかがえた。化け物が暴れた一部の場所は騒ぎになっていたが、そこから少し離れると、町はいつもと変わらぬ日常を送っていた。
「意外と、平気な感じですね……」
「怪獣が現れたのは町の端ですからね。他人行儀なんですよ、みんな」
「同じ町の人なのに……」
「学校という狭さでも、隣のクラスで起きた問題を気にしないんですよ。気になる人はいても、ちょっとした好奇心からくるもので、真に心配する人なんていませんよ」
「……さっきは、ありがとうございました」
「突然どうしました!?」
「十三話。プラズマンの新必殺技を初披露した回」
「そうです! そしてミズキさんは見事その再現を成して、我々プラズマンファンの無念を晴らしてくれました!」
「え? あの技で倒しましたよね?」
「いえ。プラズマブレードは披露されましたが、尻尾の攻撃を弾き返すだけで、結局トドメはプラズマ光線でした」
「そうでしたっけ?」
やっぱり記憶が曖昧だ。てっきりプラズマブレードで倒したものと思っていたが、実際は違うのか。
これまで使ってきた技は、元はプラズマンの技。僕はそれを真似たに過ぎない。けど、今回の事で少し分かった。僕次第で、技の再現だけでなく、威力さえも変えられる。だから、十三話のプラズマンはプラズマブレードで敵を倒したと勘違いしたままでいよう。
「ミズキさん。俺は二十五歳です。これまで色々、目撃や体験をしてきました。現実はフィクションのように上手くいかないと気付き、何かあっても自分じゃどうにもならないから放っておこうと。けど、戦ってるミズキさんを。そして戦い終わった今のミズキさんを見て、僕は思い出しました」
「何を?」
「やっぱり、俺はヒーローに憧れてるんだって」
そう言ったレンさんの表情は嬉しそうにも羨ましそうにも見えた。レンさんは他人事のように言っているが、何も巨人に変身して化け物と戦うだけがヒーローじゃない。
誰だってヒーローになれる。迷いや躊躇いを振り払う事が出来れば。




