かつてヒーローに憧れた青年
レンさんが運転する車に乗って森の中を抜けると、町の方では既に化け物が暴れ回っていた。二足歩行の恐竜のようで、尻の所に太い尻尾が生えてる。やはり壊す事が目的なのか、目についた建物を次から次へと壊している。
「今度はオーソドックスな見た目だな~! 良い壊しっぷりだ!!」
「笑えませんよ、そういう冗談……!」
「ミズキさんも、彼みたく周囲の事なんか気にせず戦ってくださいよ!」
「彼……そうか。元は、人間なんだ……!」
僕が巨人に変身するように、あの化け物も人間が変身している。今回だけじゃない。前も、その前の化け物も、元は人間。それを倒した……いや、殺したんだ。
人殺し。
その言葉が、深く胸に突き刺さった。
「あれ? どうしました?」
「……爆散した化け物は、どうなるんです?」
「そりゃあ、死んでますよ」
「……残骸とかから、元の人間が見つかったりとかは?」
「残骸……そういえば、今まで残骸なんて残ってなかった。妙だな。これまでの爆散からして、欠片が散らばってるはずなのに……」
人間。化け物の姿になって、自我を失ってるけど、あれも人間なんだ。
駄目だ。
「……戦えない」
「え?」
「……倒せば、あの化け物になってしまった人を殺してしまう」
「そんな今更―――」
「アナタは他人事だから言えるんですよ、そうやって!!!」
胸が酷く冷たい。凍ってしまったかのようだ。
怖がってる。【倒す】ではなく【殺す】になる事を知ってしまったから。
「ミズキさん……」
突然、車が停まった。化け物がいる町まで、まだ距離がある。
「……俺、昔はヒーローに憧れてました。みんなを守るヒーローになって、悪者を倒す。小学生の時に出された将来の夢にも、そう書きました。けど……中学に上がってから、周りと上手くいかなくて。中学高校でいじめの標的になって、大学でも友達が出来ず、就職も上手くいかなくて……みんなを守るヒーローどころか、みんなから疎まれる人間になってしまいました」
レンさんは完全にハンドルから手を離すと、背もたれに体を預けながら、化け物が町で暴れる様を眺めていた。
その表情は、どこか嬉しそうに見えた。
「見てくださいよ。町が滅茶苦茶に壊されてる。善人も、悪人も関係なく。みんなアレに滅茶苦茶にされてますよ。きっと町では今頃、みんな我が身可愛さで、助けを求める声なんか聞こえないフリをして逃げ惑ってる」
そうだ。化け物が暴れれば暴れるほど、沢山の人が怪我をして、死んでしまう人だっている。戦う力を持たない人間は逃げるしかないんだ。
それなのに僕は。
戦う力を持ってる僕は!
「……車を走らせてください」
「戦わないんじゃ?」
「あの化け物も、元は人間。今回だけじゃない。僕はもう、二人の人間を殺してしまった人殺しだ……けど! だけど!! そうして守ってきたんだ!!!」
凍っていた胸の内の奥から熱が込み上げてくる。迷う僕の背中を押すように、僕を奮い立たせる。
「誰かが人の平和を壊そうとするなら、僕は止めたい!! 例えそれが、人間だとしても!!」
「おぉ……! 本物だ……!!」
居ても立っても居られず、車から降りた。昂る熱が、僕の体を内から焼き焦がそうとする。
痛みはない。
あるのは、使命感だ。
「例え他人から忌み嫌われても、僕は巨人の力を使う! そして守ってみせる!!」
左胸を強く叩き、巨人に変身した。
すると、化け物は僕が現れた事に気付き、真っ直ぐ僕の方へと向かってきた。ここには何も無い。化け物がこのまま町から離れてここまで来れば、周囲の被害は考えなくて済む。
ふと、後ろを振り向くと、レンさんが車から降りて僕を見上げていた。
化け物の足音が近付いてきたのを耳にし、正面へ振り返って化け物に向かっていった。




