純粋で不純
レンさんは僕に見てほしい物があると言って、隣にある小屋に連れてきた。外から見た時から小屋と言うには大きすぎると思っていたが、中は期待を裏切らず広々としていた。三台の車と二台のバイク。整備用と思われる機械や、何らかの役割を担う鉄塊。そこら辺の整備工場よりも整備工場らしい。
「これは、なんというか……凄いですね……」
「え? ああ、ここは別に。ただの倉庫ですよ。見てもらいたいのは、こっちです」
そう言って立ち止まったレンさんの前には、両開き型の大型冷蔵庫。おそらく車やバイク関連の物ばかり置かれてる倉庫の中に、一つだけ見慣れた電化製品があるのは異質だ。
レンさんが冷蔵庫の扉を開けると、中には何も入っていなかった。それだけでなく、ヒンヤリとした冷気も無い。
「さぁ」
「……さぁ、というと?」
僕の疑問に答えず、レンさんは冷蔵庫の中に入った。隣に一人分のスペースを空けてる所から察するに、僕も入るべきなのだろう。
冷蔵庫に入ると、扉はひとりでに閉じ、何かが作動する音がし始めた。
数秒もしないうちに扉が開いた。その先に広がる光景は、さっきの倉庫ではなく、十数台のモニターが壁のように設置された異様な光景。レンさんはデスクの椅子に座ると、コンピューターを起動した。
すると、一斉にモニターが点き、町のありとあらゆる場所の映像が映された。レンさんはクルリと椅子を回転させると、手を広げて僕に言った。
「ようこそ、僕の秘密基地へ」
秘密基地。小学生の頃、そういった物に憧れてはいた。けど、僕が想像していた秘密基地はせいぜい空洞の木の中にテレビなどを置く程度。これは次元が違う。
「……レンさん。アナタ、何者ですか?」
「地上の人間を監視する地底人! ……なんてね。ただの金持ちの息子だよ」
「いや、ただの金持ちがこんな場所持ってませんよ。こんな所で一体何を―――」
その時、モニターの一つに目が留まった。映っていたのは、パチンコ屋でバチンコを打ってるミチコさんの姿。別にあの人の趣味に文句を言うつもりはないけど、お金が無いならパチンコなんて……お金?
あれ。そういえば僕、ミチコさんから財布返してもらったっけ?
そう思っていると、ミチコさんが僕の財布から千円札を取り出す姿が映った。
「僕の財布!!」
「うわっ!? ど、どうしたんです!?」
「あの人、なんでパチンコ台に向かって拝んでんの?」
「……あぁ、この人の事言ってたんですね。多分、最後の軍資金なんでしょう」
「僕のお小遣い!!」
「もしかして、この女性に盗られたんですか?」
「盗られたっていうか、奪われたっていうか……」
「許せませんね……! あ、そうだ! 巨人になって取り返しに行けばいいんですよ!」
「え? いや、そこまで怒ってないよ……」
「ミズキさんには力があるんです! 軍事力を凌ぐ程の強大な力が!」
そう言ったレンさんの目は、キラキラと輝いていた。子供のような純粋な笑みを浮かべているのに、言ってる事は不純だ。
よくよく考えれば、この人は何故僕をここに連れて来たんだろう。地下に隠された秘密基地に招いてまで連れて来た理由が。
嫌な考えがよぎった。この人は、僕の変身能力を利用しようとしてるんじゃないか? 町の至る所を映すカメラや、表面だけの純粋さ、僕に対する低姿勢。怪しさでいえば、かなり怪しい。
「……レンさん。そろそろ教えてくれませんか? どうして僕をここに連れて来たんですか。どうして僕を呼び寄せたんです。」
「それは―――って、あの男!」
レンさんはとあるモニターを見て、目を大きく見開かせていた。その視線を追って同じモニターを見てみると、路地裏で胸を抑えながら苦しんでる男の姿が映っていた。
次の瞬間、男は眩い光に包まれ、モニターにノイズが走った。
それと同時に、胸騒ぎがした。三度目となると、これが何を意味するのか分かる。
「行かないと……!」
地下に降りてきたエレベーターの中に入ると、レンさんも一緒に乗り込んできた。
「戦いに行くんですよね! だったら、俺が近くまで送ります!」
「……お願いします」
この人の目的は聞けずじまいだけど、今は一刻も早く化け物のもとへ駆けつけないと。




