本当の自分
森の手前で出会ったレンさんの案内のもと、森を進んでいくと開けた地に出た。自然の中に小さな家と、家よりも大きな倉庫がポツンとある。家は屋根以外木で作られた丸太小屋。対して倉庫は材質が分からないが、凄くお金が掛かっていそうな雰囲気を醸し出していた。
家の中に入ると、別室にトイレとキッチンがあるだけで、家のほとんどがリビングのみ。暖炉や本棚、ソファにテーブル、端っこにベッドが一つ。一人暮らしって感じだ。
「あの、お茶って……?」
「あぁ、じゃあ、いただきます」
「そうですか! えっと、紅茶とコーヒーってのがあるんですけど。紅茶は、優雅? コーヒーは、こう……苦い! みたいな!」
「……紅茶で」
「アッハ! 紅茶選ぶんだ! 了解しました!」
レンさんは僕に敬礼すると、急いでキッチンがある部屋に駆け込んでいった。あの人、僕の事を人間扱いしてないな。
ソファに座り、部屋を見渡した。パッと見はオシャレな感じがするけど、よく見れば、本棚にはヒーロー物の本で埋め尽くされ、ありとあらゆる場所にオモチャの飛行機や人形が飾ってある。
中でも一際目を惹いたのが、額縁に入れられたプラズマンの絵。レンさんが小さい頃に描いたのか、上手い下手で片付けられない良さがあった。真ん中のがプラズマン。その右隣にいるのがレンさん。
この浮かんでる天使の二人は、なんだろう?
「ミズキさん、ごめんなさい! 紅茶切らしてました!」
「あぁ、じゃあ、いいです……」
「すみません! ……えっと、その絵が気になりますか?」
「え? まぁ……これ、レンさんが?」
「はい! 俺がまだ小さい頃。テレビで放送してたプラズマンを観て、描いたんです」
「そうなんですか。僕は再放送されたのを観てました」
「そうなんですか!? それじゃあ、ミズキさんもプラズマンを観て、自分もプラズマンになったんですか!」
「ですから違いますって。それより、本題に移りましょうよ。レンさん。どうしてアナタは、巨人の正体が僕だって分かったんですか?」
僕がそう言うや否や、待ってましたと言わんばりにレンさんは張り切って、ノート数冊とノートパソコンをテーブルに並べた。
「ミズキさんがプラズ―――巨人に変身してると分かったのは偶然でした。実は俺、以前からこの町の異変について調べてたんです」
「異変? そんなのありました?」
「一般的には知られていません。一ヵ月前から、この町では微弱な地震が起こり続けていました。けど調べてみると、その揺れは地震とは別のものでした。地面が揺れてるのではなく、揺れてるのは空気。もっと言えば、空間が揺れていたんです」
「空間が揺れてたって……どうやって分かったんです?」
「この世界には目に見えずとも存在するもので溢れかえってます。それは人間の体にもあって、その中で調べたのが電磁波です。人間のエネルギーは微弱ですが、体外にも放出されてるんです。体温が高くなる、つまり風邪をひいた時に高熱を出すと、放出される電磁波は色濃くなるんです。普通は目で見えない現象ですけど、今の時代は機材さえあれば視認出来るようになってるんですよ」
レンさんはノートパソコンを操作して、グラフを表示した。
「こっち側は通常の人間のデータです。赤いでしょう? これは全身に血が通ってる証拠です」
「……これ、レンさんですか?」
「いえ。町を歩いてた一般人です」
「……盗撮では?」
「これはあくまでも調査の為。私利私欲ではないので、盗撮にはなりません。それで、見てほしいのがもう一つの方。こっち側と比べて濃いオレンジ色ですし、かなりの量のエネルギーが漏れ出ています」
「つまり、人間じゃないって事ですか?」
「その通りです! 推測ですが、体温は六十度以上。到底人体が耐えられるものではありません。このエネルギーが空間にも干渉して、微弱な揺れを発生してるんです。それで俺は、対象を尾行していたんです。そして四日前。対象は突然苦しみだし、眩い光を発すると―――」
「化け物に変わった……」
「そして、ミズキさんも」
「……僕は違う」
分かっている。変身した僕は、これまで倒してきた化け物と同じ存在だ。でも、それは一時的な話であって、僕は人間のまま。
けど、こんな風にデータを出されて、お前も同じだと言われると、不安になる。
変身した僕の姿って、どっちなんだろう。僕が気付いていないだけで、僕はもう化け物と化していて、人間の姿に化けているのかもしれない。ミチコさんのように、人間の姿をしてる化け物に。
こっちが仮の姿で、巨人が本当の僕。その可能性に気付くと、嫌な想像をしてしまう。
僕もいずれ、心まで化け物になってしまうのかもしれない。
けど、それは裏を返せば、心はまだ人間のままという事。それを忘れなければ、僕はきっと人間のままでいられる。




