他人の空似
土曜日の早朝。運動着に着替えた僕はランニングに出掛けた。淡い青色の空の下、誰もいない道を走り続ける。今日は体の調子が良いのか、走っても走っても、息苦しくなる気がしない。
そうして走り疲れた頃、僕は町から少し離れた場所にある森の手前まで来た。後ろに振り返れば、僕が住んでいる町の景色がコンパクトに収められていた。あの町の中に居る時は、都会とは言えずとも、それなりに広くて建物がある町のように思えた。
けれど、こうして少し離れた場所で眺める町の景色は、限られた範囲に建物が設置されたジオラマのように感じた。
「意外と、小さいんだな……」
切り株に腰を下ろし、町を眺めながら思う。
何処から化け物は現れるのか。
僕の体に宿る巨人に変身出来る力の正体。
ミチコさん。
何一つ分からない。そんな状態で、これから戦い続けてもいいのだろうか。何も知らずに戦うべきなのか。
変だな。つい先週まで、僕は等身大の人生を送ってたはずなのに、今は町が小さいだなんて思っている。戦いとは無縁の生活をしていたのに、ランニングなんて始めて体を少しでも鍛えようとしてる。
「……あ、そうだ」
ポケットから携帯を取り出し、保存してあった携帯番号の欄で、一番新しく保存してある番号。机の中にあった手紙に書かれていた番号。結局警察に相談する事も、ミチコさんに伝えてもいない。
最初は不審に思えたけど、万が一に危険な状況に陥っても、僕には巨人に変身出来る力がある。対処法があると、不思議と恐怖の代わりに好奇心が湧く。
番号をタッチして、電話を掛けてみた。
すると、少し離れた場所から着信音が聞こえた。この着信音、プラズマンのオープニングか。
「あっ! ちょちょ……!」
音がした方を向くと、木の後ろに身を隠していた男が慌てふためきながら、携帯の着信音を消そうとしていた。
『……電話ありがとう、ミズキ君。きっと君は、俺を怪しんでるんだろう?』
男は尚も木の後ろに隠れながら、妙に怪しげな口調で語り掛けてきた。僕が気付いていないと思っているのか、バレていないと思っているのか。どちらにせよ、変な人だ。
『まず初めに言っておきたい。俺は君の敵じゃない。むしろ、味方になれると思ってる』
男の話し方に違和感を覚えていたが、近くまで来て違和感の正体に気付いた。
この人、あらかじめ書いていたメモを読んでる。だから演技っぽい印象があるのか。それにしても、なんでこんなに怪しくメモを読み上げてるんだろう?
『……聞こえてるか? ……あ、あの……あれ? 電波、悪いのかな?』
「……あの―――」
「ウワァッ!? ……あぁぁぁぁ!!!」
二度驚いた。そりゃあ傍に電話してた相手がいたら驚くけど、二度驚く必要あるか?
そしてこの人。やっぱり、教室で僕の名前を聞きに来た人だ。
「ど、どうして俺が隠れてるって―――も、もしかして、そういう力を持ってるの!? 隠れた敵を察知する能力とか、テレパシーみたいな超能力とか!!」
「……いや、普通に着信音で―――」
「音!? 聴力か!!」
「そうじゃ―――あぁ、いや、そうですけど……」
なんだろう、この人。見た目は普通の人っぽいし、歳も多分二十過ぎくらいの若い人。何一つおかしな所が無いのに、異様に目が輝いてる。
ああ、あれだ。昔、父さんがプラズマンの番組を観てる時と同じ目の輝きをしてる。
という事は、この人―――
「―――オタク?」
それから数分くらい、自分勝手に話すこの人の話を聞き流し続け、ようやく満足した様子になってから話し始めた。
「その、アナタは?」
「申し遅れました! 俺、御剣レンって言います! 親しみを込めて、レンと呼んでください!」
「そうですか。僕は―――って、もう知ってますよね?」
「はい! ミズキさん! それから、プラズマン!!」
「んん、違うよ。違わないけど、違う。僕はミズキ。プラズマンじゃない」
「でもミズキさんは、プラズマンに変身するじゃないか!!」
「似てるだけだから」
父さんといい、この人といい、頑なにプラズマンって事にしたがる。コンテンツ不足に飢えたオタクの必死さ故なのだろうか。
少なくとも、巨人に変身する必要は無さそうだ。むしろ、変身しない方が身の為な気がする。




