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Memorial Symponia〜メモリアル・シンフォニア〜  作者: 桜庭つむぎ


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19/21

余韻の終止符(ピリオド)

フィアとバルドを退けたロゼアとミリルの前に、レオンが静かに着地する。その一歩が石畳に触れた瞬間、広場に満ちていた戦いの熱が、急速に冷え切った。

「見事だよ、ロゼア。だが、私の前ではその響きも『未完成』に過ぎない」

レオンが懐から黒真珠のような輝きを放つ漆黒の指揮棒タクトを抜く。その瞬間、ロゼアは喉を掴まれたような息苦しさに襲われた。空気が、音が、世界から消えていく。

「……そこまでだ、レオン」

背後から、重厚で、それでいてひび割れたピアノの音が響いた。

満身創痍のヴィクターが、血の滲む指で鍵盤を押さえ、レオンの放つ「沈黙」を力ずくでこじ開けていた。

「ヴィクター! でも、その体じゃ……!」

「構うな! ロゼア、ミリル。……俺の音を聴け。これが、俺たちがシエルと共に追い求めた……最後の『答え』だ!」

ヴィクターが咆哮とともに、鍵盤の端から端までを叩きつけるように滑らせる(グリッサンド)。それは師から弟子へ、過去から未来へと繋ぐ合奏の合図だった。

「……悲しいね、ヴィクター。君の音は相変わらず泥臭い。——休止フェルマータ

レオンが漆黒のタクトを一閃した。

刹那、ヴィクターのピアノから放たれた音の波動が、空中でピタリと静止し、色を失って霧散する。

「なっ……音が、止まった……!?」

絶望するロゼアの肩を、ミリルの冷たくも力強い手が支えた。

「ロゼアちゃん、前を向いて。……まだ、音は死んでない」

「……っ、そうだね。ミリル、ベースを! ヴィクターの音に、あたしたちの音を重ねるんだ!!」

ロゼアは押し潰されそうな重圧の中で、必死に純白のタクトを掲げ直した。隣に立つミリルを見つめ、魂を込めて叫ぶ。

「——いけるよね、ミリル!」

「うん!」

短く、重みのあるミリルの返事。

その瞬間、彼女が影のタクトを限界まで振り切り、地底から突き上げるような重低音を響かせた。

ヴィクターの泥臭くも力強いピアノ、ロゼアの光り輝く旋律、そしてミリルの重厚なビート。

三人の意志が重なり、溶け合い、一つの巨大な「生」の奔流となる。

「——総演奏テュッティ!!!」


三人の音が一つに束ねられ、放たれた共鳴波がレオンの敷いた「沈黙の結界」を真っ向から粉砕した。弾け飛ぶ衝撃が広場を震わせ、静まり返っていた街に、確かな「音」が奪還される。

レオンは乱れた前髪を無造作に払い、漆黒のタクトを握り直した。その瞳には冷徹な支配者の光ではなく、かつてヴィクターやステラと競い合った「天才奏者」としての狂気が宿っている。

「……面白い。私の沈黙を、力ずくで書き換えたか。……いいだろう。ならばどちらが真の『調律』か、決めようじゃないか」

レオンが空中に巨大な弧を描くようにタクトを振るった。

「——現れよ、亡霊たちの聖歌隊(レクイエム・合唱団)。私の指揮に従え。」

レオンの背後、大聖堂の影から、漆黒の霧を纏った無数の「影の奏者」たちが溢れ出した。彼らが抱えるのは、ひび割れた弦楽器、歪んだ金管楽器、そして血を流すような音色を奏でるパイプオルガン。

広場全体が、レオンを指揮者とした絶望のフルオーケストラへと変貌していく。

「この街の悲鳴、嘆き、そして君たちの足掻き……すべてを吸い上げ、完璧な終止符を打ってあげよう」

レオンがタクトを振り下ろす。

地を這うような重低音と、空を裂くような不協和音の濁流が、三人の合奏に襲いかかった。

「ロゼア、ミリル! 怯むな!」

ヴィクターが血を吐きながらも、ピアノの音をさらに研ぎ澄ませる。

「……うん。あたしたちの音が、負けるはずない!」

ロゼアは純白のタクトを構え直し、レオンのオーケストラという「巨大な壁」を見据えた。

「あたしたちの最高の一曲……聴かせてあげる!」

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