眼鏡ちゃんとの出会い
お天気の良い本日。
私は市の造紙屋に来ていた。造紙屋とは紙しか売ってない文房具店だ。
屋敷からほど近いこの紙屋には、いつもならば菊の教育係・相模が来てくれていた。
相模は度重なるじじいのセクハラに耐え切れず、先日とうとう辞めてしまった。
なので仕方なく私自ら文に使う草紙を買いにきている。
くぐり戸を入ると、店内の木台には色とりどりの造紙が並べられていた。どれも自然の草木で染色されたもので、ほんわかしたパステルカラーが見ているだけで癒される。
私は気になる草紙を手に取って格子から入る日の光に模様を透かした。
うん、めっちゃかわゆい。
のんびりショッピングも楽しいものだ。
そんな中、台の端に置かれた上品な薄ピンクの草紙が目に留まった。かわいらしい花の透かし紙は、それが残り一枚だとわかった。これは手に入れるしかない。
私は迷わず手を伸ばした。すると、
「「あ、ごめんなさい」」
同じ紙を求めようとしたらしい。傍らの人とマンガみたいに手が触れ合う。反射的に手を引き、お互いすぐに頭を下げた。
物語ならこれは恋の始まるフラグだ。しかし残念ながらそれはなさそうだ。
なぜなら相手は長身の色白女性。どこか幸薄そうな一重の目元が涼しい美人さんだった。めがねをかけているのが珍しい。
どこかの御屋敷に勤めているのだろうか。女官風のいで立ちだ。
私はすぐに笑顔で言った。
「気に入ったのならどうぞ。御主人から言いつかったお使いでしょう?」
この時代、紙はまだまだ高級品。きっとこの人は高位貴族のお使いで買い物に来た侍女だろう。お目当ての品を持ちかえることができなければ叱られるだろうに。
「いえ、そちらこそどうぞ」
消え入りそうな小さな声で、色白の女官さんは紙を私に押しやった。
女官さんは黒髪を一つに束ねた髪型が地味だけど、すごい美人だ。眼鏡と揺れる横髪であまり表情がうかがえない。
「大丈夫だよ。私の事は気にしないで」
私が草紙を手渡し、返さないようにぎゅっとその手を握ると、眼鏡ちゃんは真っ赤になって「悪いです」「失礼します」と、慌てふためき逃げようとする。
……何、この娘、超かわいいんですけど。
この時代の女性は割と活発で自由な反面、気が強い人も多い。こういう癒し萌え系タイプは希少だ。
私はガサツで男らしい方なので、こういうモジモジちゃんが大好物だ。
私の中の直感が告げる。この子は逃してはいけないと。
――――捕獲決定。
「ねえ、どこの御屋敷におつとめなの?時間あるなら私の屋敷に来ない? 私たち年も近そうね。おいしい果物もあるから一緒にお茶をしましょうよ。あ、うちの屋敷、最近改築して素敵になったの。見に来て? ぜひ」
全力でお誘いしながら、女官さんの眼鏡の奥をじっと見つめる。
私の中で眼鏡=頭が良い、というゆるぎない偏見がある。これは視力2.5の私の持論だ。
先日辞めた教育係・相模の後任がまだ決まらない中で、菊が退屈し始めている。
連日私に来る手紙の処理も(実は文字が読めなくて)困っているし、こうしたちょっとしたお使いをしてくれるお手伝いさんもいなくて不便だったのだ。
(この娘をスカウトしよう。)
他に伝手もない私は、勝手に決心した。
「え、いや、自分……私は――」
眼鏡ちゃんは自らのことを『自分』だなんて呼んでいて厨ニ気質が甚だしい。こういう人と私、話が合う気がする。益々気に入った。
「いいからいいから。すぐだから」
私は眼鏡ちゃんの腕をがっちり掴んで、逃げられないように引きずりながら屋敷へ向かった。
明らかに戸惑う眼鏡ちゃんはモデルのバイトをしていた私より10センチ以上身長が高くて、掴む腕も女性にしてはがっちりしている。
いいね。健康面は問題なさそうだし、力仕事もこなしてくれそうだ。
眼鏡ちゃんは最後まで結構な力で抗った。だけどここで有能人材をみすみす逃すわけにはいかない。 私は「大丈夫」「休むだけだから」「すぐ済むから」と、ダメ男がいかがわしい場所に女子を連れ込むが如く、宥めすかしながら何とか屋敷に引っ張り込んだのだった。
☆★☆
「で? あなたは字なんかは読めたりするの?」
自室にお菓子を持ち込み準備万端。
私は脇息に寄りかかりながら、面接官っぽく眼鏡ちゃんに尋ねた。
「……ええ……まあ……」
正面に座る眼鏡ちゃんは目の遣り場に困っているのか、視線を逸らしながら答える。
あれか。私が着物の裾を肌蹴させて膝を立て、おっさんくさく座っているのが気になるのか?
お股が丸見えだけど、パンツは履いているし、一緒に生活するならこれくらいのだらしなさには慣れてもらわないと困る。同じ女子だし。
私は眼鏡ちゃんにお茶を勧め、膝を正した。
「ねえ。率直に言うと、うちの妹の教育係を探しているの。貴女、やってみない?」
眼鏡ちゃんは心底驚いた様子で、目を丸くした。真っ青になったかと思うと、言葉も発せず慌てふためいている。そんなに動揺しなくても……。
しかしまずい。返事を聞かなくてもわかる相手の態度に私は自分のアプローチが急すぎたかと反省する。
「いや、いいの。他の御屋敷にお勤めなのよね。そちらを円満に辞めてもらって、それからうちに来てもらえればいいと思うの。ちなみにどこの家にお仕えしているの?」
眼鏡ちゃんは驚きを通り越して、呆然としている。何か言おうとするも、思い悩んだ顔で口をつぐむ。
なるほど。主家に対する守秘義務も万全という訳か。
ますます欲しい人材だ。
しかしこういう人は力づくで言うことをきくタイプではない。心の底からうちに来たいと思わせなければ無理だ。うちの屋敷のセールスポイント……一瞬の逡巡の後、私は膝を叩いた。
いい考えがある。
「……ねえ。屋敷を改築したって言ったでしょう。スゴイものを増築したのよ。ちょっと見ない?」
眼鏡ちゃんは話題がそれてほっとしたのか、表情を緩め、こくりと頷いた。
なんか、この子本当にかわいい。ガタイはいいけど、守ってあげたいタイプ。顔も幸薄を絵に描いたような陰のある美人で、男の人なら放って置かないタイプだ。
「こっちよ」
私はわざと眼鏡ちゃんの手を取った。眼鏡ちゃんは予想通り真っ赤になり、私は萌え~っとした気分で渡殿を奥へと案内した。
☆★☆
「これは――」
眼鏡ちゃんはこれまた予想通り、目をまん丸にして驚愕の表情で言葉を失った。
そう、ここは湯殿。なみなみお湯を湛える湯船を目の前にして眼鏡ちゃんは立ち尽くした。
「どう?びっくりでしょう? うち、お風呂があるのよ」
増築したのは大きなヒノキの大浴場。この時代では珍しい入浴ができる場所だったのだ。
私はそっと眼鏡ちゃんの腰紐に手をかける。
眼鏡ちゃんは身を固くして、私を振り返った。
別にとって喰おうってわけじゃない。女同士だし。
私が抵抗を無視して紐を解き始めたので、眼鏡ちゃんは慌てて逃げようとする。
「えー、なに暴れているの? 入浴は初めて? わかる、みんなあんまりお湯にはつからないもんね。でも大丈夫。最初は慣れないかもしれないけど、入ってみたら本当に気持ちいいから」
私は腰が抜けて床を這う眼鏡ちゃんを、後ろから羽交い締めした。
「信じて。女子は絶対風呂が好きだから」
そう、私はこの眼鏡ちゃんを風呂のトリコにしたいのだ。豪華施設を堪能させて、その福利厚生に感激した眼鏡ちゃんに、うちで住み込みで働いてもらうのだ。
これは名案だと自分でも感心した。
「ねえ、眼鏡ちゃん。うちの離れに住んで働きなよ。お風呂も入り放題だし、この家は立地もいいでしょう? まちの市にお使い行くのも便利だし、役所がある王宮にも近いよ」
暴れる眼鏡ちゃんに宥めるように囁き、同時にがっちりと背後から抱きしめた。眼鏡ちゃんは耳が弱いのか、私の息がそこにかかっただけでその場に力なくへたり込んでしまった。
いちいち反応がかわうぃいの極地だ。
「恥ずかしくないよ。私が背中を流してあげる。ホント、ビックリするくらい垢がとれるから!」
そう言うと、私は立ち上がり、眼鏡ちゃんの前で勢いよく自分の着物を脱ぎ棄てた。
こう言うのは恥ずかしがっている姿を見せると相手も怯む。下着まで脱いですっぽんぽんになり、眼鏡ちゃんの前に仁王立ちした。
床に這いつくばる眼鏡ちゃんは目の前で赤くなったり青くなったりを繰り返している。私を見上げて震えながら動かない。腰を抜かしているのかもしれない。
気持ちはわかる。お風呂なんて生まれて初めて見たのだろう。混乱するのも当然だ。極楽極まる垢すりをすぐにでも施してやりたいが、怖がられたままだと只の痛い行為だ。私はなるべく優しくにっこりと語りかけた。親しみを込めて正面から彼女の両肩に手を回す。
「……ねえ。初めてなんでしょう? 大丈夫、私が優しくしてあげる。痛くないよ。何にも考えずに寝転がっていれば終わるから」
眼鏡ちゃんは酒でも飲んだのか? というくらい真っ赤になってしまった。目線が定まらず、意識が遠くに飛びつつある。そんなに垢すりイヤか?
私は、(日ごろ垢すりで磨いた自慢の)肌を披露すべく、身を乗り出して眼鏡ちゃんの上に覆いかぶさった。自分の一番皮膚が柔らかくてすべすべした部分をぜひ感じてほしい。美肌は全女子の憧れだ。
「ほら、柔らかいでしょう? 触っていいんだよ。やってみればいいんだよ。本当に気持ちいいよ」
そう言って眼鏡ちゃんの手をとり、自分の乳房を触らせた。肌のきめ細かさには自信がある。で、冗談気味に上から自分の手をあてがってモミモミしてみる。
「ね? 天国に連れて行ってあげる」
って、言った瞬間。
……アレ。なんか眼鏡ちゃん爆発した。
真っ赤になったまま、マンガみたいにプシューって。
古代女子には刺激が強かったか……。
しかし、折角準備した湯船。是非、浸かってその気持ち良さを確かめてもらいたい。
私は脱衣所で倒れ、気を遠くしている眼鏡ちゃんの着物を脱がし始めた。馬乗りになってほぼ追いはぎに等しい。
裳、という巻きスカートを取り去り上着を肌蹴させた所で、眼鏡ちゃんがはっと正気に戻った。
「や、やめてください!」
ちょっと低くドスのきいた声で私を制し、着物の合わせを慌てて閉じる。本気で嫌がっているのかな? と思う。
けれど、こう言う時はノリだ。私は「あはは~良いではないか、良いではないか」と、悪代官のように着物をはぎ取った。
双方暴れながらの攻防はしばらく続いた。私は全裸でおっぱいをぷるんぷるんとさせながら、ギャハハと笑い、片手には奪い取った着物を握りしめる。修学旅行みたいで楽しい。
しかし、彼女の最後の一枚……下半身の下着をはぎ取った瞬間、時が止まった。
私は自分の視界に映る異物に、目を塞ぐのも声をだすのも忘れた。じっと眼鏡ちゃんの股の間を凝視する。
――……ち○こじゃん。
二人の間に寒い空気が流れる。
眼鏡ちゃんの胸を見る。ない。当然だ。生まれてこの方、ち○こがあって胸がある人間に会った事がない。混乱した頭で整理する。頭は悪い方なのでちょっと時間はかかる。
これはつまりその――。
「痴漢ーーーーー!!!!!」
「ちがうだろっ!!!!」
眼鏡ちゃんは明らかに低い男の声で慌てた。
眼鏡ちゃんじゃない、眼鏡野郎だった!!
私は仁王立ちで腰に手を遣り、高圧的にまくし立てた。
「痴漢じゃなくて何なのよ! そんな……いきり立ったモノ露わにして……っ!」
「君のせいだろう!?」
わが身振り返ると、……とりあえず全裸だった。急いでパンツを履きながら、眼鏡を睨む。
眼鏡も下着を整えながら、別の方向を向いた。一応見ないよう気を使っているらしい。
完全に遅いけどな!
「……そこにうちの爺さんの着物がちょうど置いてあるから着なさいよ」
「僕はもう帰るよ」
「は? こんなことして帰れると思ってるの?」
「……」
私は急いで着物を着込んだ。眼鏡にもそこらにあった着物を適当に羽織らせる。
……よりにもよって古の男の娘を誘い込んでしまった。
令和の世界では様々なタイプの男子と遊びまわっていた最強女子高生の私もこれは初めての経験だ。
これはいったいどうしたものか……。
眼鏡は観念したような開き直ったような、判別しがたい複雑な表情をしている。暗く沈む瞳の色からわかるのは、かなり深刻そうだってことだ。
とりあえず二人、無言のままもと居た部屋に戻ったのだった。
☆☆読んで頂きありがとうございます!面白くなりそうだなって思ってもらえたらブックマークお願いします!読んで下さる方がいたら全速力で更新します!☆☆




