37 不穏
奇妙な物体を見たまま途方に暮れていた。
さっきの侵入者は一体なぜこんなものを置いて行ったのだろうか。考えてもさっぱりわからない。とりあえず触って調べて見るのは危なそうだ。何なのかわからない以上、べたべた触ったりすると予想もしない事態が起こるかもしれない。
隠し扉に手をかけて扉を閉める。ベッドに入って休もうとしたが、やはり気になって眠れない。
「あっ!」
あわててベッドから起き上がった。
のんびり寝ている場合ではない。アンディとカールに知らせないといけない。
「こんな大事なことどうして……」
自分を責めながら、気を引き締めようと背筋を伸ばす。しっかりしなければ。明日が決行の日だ。
「アンディ。アンディ、起きてる?」
声をひそめて扉を中からノックする。しばらくして、外から返事が聞こえた。
「来てほしいの。大変なことがあった」
私がそういうなり、扉が勢いよく開いた。
当然、扉の真ん前に立っていた私は派手に頭をぶつける。
「いたっ!」
おでこがひりひりする。痛みで自然と涙目になった。
頭をさすりながら、アンディの姿を探す。じんじんと痛むけれどそれどころではない。
「あれ? どこ?」
扉が開いた方を見ても誰もいない。
そんな、消えるはずがない。
きょろきょろと首を振っていると、誰かに肩を叩かれた。
「ひっ」
びっくりして後ろを振り返る。
そこにいたのはアンディだった。
彼はよほど急いで中に入ったのだろう。私が扉で頭を強打したのも気づかなかったようだ。
「何があった? 無事? 怪我はない!?」
「いや、あの……」
戸惑う暇もなく、思い切り抱き締められる。首に回る腕の力が、息が苦しくなるほど強い。
まるで存在を確かめるような抱擁だった。逃げていかないようにきつく。今ここにある体を全身で感じようとしている。
「く…るし……っ、はなし……」
されるがままになっていたが、本当に息が苦しくなってきた。
必死に訴えても彼はまったく聞いていない。仕方がないのでもがいて伝える。力の差が圧倒的だから振りほどくことはできないが、何とか気づいてもらえた。
大変なことがあったなんて言うんじゃなかった。伝え方を間違えた。心配させたんだ。息を整えながら軽く後悔する。
「あの、落ち着いて。たいしたことじゃないから。うーん、たいしたことでなくはないんだけど、今すぐどうこうとかいうことじゃないの。見て」
彼に落ち着いてもらおうと、精一杯冷静に話した。
ベッドをずらして隠し扉が見えるようにする。
「さっき、誰かがこれを置いていったの。何かはわからない……」
隠し扉を開くと、そこには先程置かれていった大きなブリキの缶があった。缶の側面によくわからない機械のようなものが取り付けられている。
アンディは不振げに缶を観察している。彼も何なのかわからないようだ。それに、普通なら触ったりして確かめるはずなのに手を出そうとしない。自分と同じく警戒しているのだろう。
「置いていった人物は見てない?」
「見なかった。……ごめんなさい」
「謝ることじゃない。逆に見てたら怒ってたよ、危ないだろって」
「私って……そんなに危なっかしいのかな……」
少しショックだ。
「これ……何なんだろうね。何が入ってるのかな……」
「置いていった誰かの足音は堂々としてた?」
「堂々と? ううん、全然。ゆっくり一歩一歩、忍び足で歩いてた。見つからないようにしてるみたいに。だから、見つかったらまずい理由があったのかも」
アンディはしばらく考え込んでいた。
そして顔を上げて、穏やかでない表情で口を開いた。
「あの兄妹かもしれないーーほら、街に行った晩にあとをつけてきた」




