23 初恋
目を開けると、まぶしい光が小窓から射し込んでいた。今日はいい天気らしい。
ベッドから起き上がってのびをする。ここにきて初めての良い目覚めかもしれない。
小鳥が鳴いている。鳴き声は窓のすぐそばからしていて、しばらくすると窓に小鳥がとまった。動物とのふれあいも久しぶりだ。近づいていくと小鳥はバサバサと飛び去ってしまった。
「はあ。そういえば、することがないなあ……」
昨日までは、脱出しようと足枷の鎖を切る作業をしていた。しかしもうそれは必要ない。アンディとカールの計画に乗じて逃げるのだから。
今思えば無謀な作業だった。あんな小さくて切れ味の悪いバターナイフで鉄の鎖が切れるわけがない。
もう私には味方がいる。
味方。それはとても心強い響きだ。
アンディの顔が思い浮かんできた。
彼のことを考えると、胸のあたりがうずくような、どきんとするような変な感覚を覚える。また初めてのことだ。やっかいなものだ。でも嫌いな感覚ではない。
もう一度寝てしまおうかと思ってベッドに横になるが、すっきりと目覚めたので眠りにはとても入れそうにない。
(本当に、ひまだな……)
カールもこんな風に暇を持て余しているのだろうか。足はもう自由になっているので、扉を開けるとすぐそこのカールの部屋へ行くこともできなくはないが、自分は本来ここにはいない存在なのだから万が一誰かに見られてはまずいと思いとどまる。
ぼーっとしていると、ついアンディのことを考えてしまう。
彼はなぜあんなに自分を大切に扱ってくれるのだろう。もう何度となく考えたことだがいまだに謎だ。「好きだから」と前に言っていたけれどあれは信じてもいいのだろうか。
もしかして……同情?
そうか、同情かもしれない。アンディはいい人だからなおさら。わけもわからず生贄として連れてこられて、閉じ込められる私を見てかわいそうだと思ったのだ。
でも――それは信じたくない。なぜかものすごく嫌だ。
消されていた記憶の手前、市場でひとり花を売っていた頃も、かわいそうなみなしごだとお金をくれる人や、おつりはいらないよなどと言う人はいた。かわいそうな子だと思われているのだとわかったが、あまり気を悪くはしなかった。向こうは良かれと思ってやっているのだからと思うようにしていた。
しかし、アンディの優しさがすべて同情によるものだと推測した途端、無性に悲しいような、身を裂かれるような気持ちになった。
嫌、そんなの。彼にとって特別な存在だからだと信じたい。
「……私、こんなこと思ってたんだ」
ああ、この初めてには気が付かなかった。
けれどたぶん、結構前からのものだったのだろう。
これが恋なんだ。
「私にもできるものだったんだ」
お伽噺に出てくるきれいなお姫様や、明るくて誰からも愛されるような子だけのものだと思っていた。
「でも、こんなにつらいものなんだね」
胸の中心に穴が開いて、どんどん広がっていくような痛みがある。
贅沢を言ってはいけない。誰かを想うことができただけでも、幸せだと思わなければいけない。アンディの同情からくる優しさに惹かれて好きになったのだとしても。
彼を想うのは満たされるような喜びがある。それが救いになった。このじくじくとした痛みが少し和らぐ。
ぱたりと、温かい雫がシーツに落ちる音を聞いた。
* * *
それからしばらくしてアンディが朝食を運びに部屋へ入ってきた。
泣いていたのを気づかれないようにあわてて目をこする。まだ赤いかもしれない。なるべく目を合わせないことにした。
「おはよう。いい天気だね」
明るさを装って話しかけた。
「おはよう。そうだね、久しぶりに晴れた」
たわいもない会話なのに、胸がどきどきとして落ち着かない。自然と口角が上がる。
いつも以上に沈黙が怖かった。喋るのってこんなに難しかったっけ。意識しすぎているのがいけないのだとわかっているけれど、アンディの目に自分がどう映るか気になって仕方ない。
アンディは私のそんな気持ちは知らずに振る舞うものだからたちが悪い。そんなに近づかないで! 目のやり場に困ってしまう。
朝日に照らされて宝飾品のように輝いている金髪をぼんやりと眺めていると、うっかり思いついたことを漏らしてしまった。
「外に行きたいな……」
言ってしまってからはっと口をおさえ、青ざめた。
これこそ失言だ。信じられない、なんてことを言ったんだろう! 外に出たいなんてアンディが聞けば悲しい顔をする。彼は、閉じ込められている私に同情しているから。
「……なら、行く?」
「え」




