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20 策謀、証人

「会わせたい奴がいる」

「へ?」

 唐突にアンディが言ったので間の抜けた声が出る。

「ごめん、順番を間違えた……先に説明しないといけない。単刀直入に言うと、俺はエレンの味方だ。つまりランズウィック家の敵ってこと」

 目をぱちくりさせる。あまりにはっきり伝えられたので頭が追いつかなかった。

「今まで騙しててごめん。もっと早く言いたかったけど怪しまれるといけないから」

「そんな、騙したなんて思ってないよ!」

 彼が味方だというのはすんなり理解できる。いや、もうずっと前から私に危害をくわえたりしないというのはわかっていた。

 ここに閉じ込められて間もない頃、餓死でもしたほうがましだと言ったことがあったのを思い出す。彼はきっと、見張りと生贄という関係で出会って間も無く味方だと伝えても信じてもらえずに、隙を見て逃げ出されるのを恐れていたのだろう。

 だから、警戒がとけてきて、過去に一度出会ったことがあるということを思い出した今やっと伝える気になったのだろう。

「そう? なら安心したよ」

「アンディ、あなたが味方ならーーここから出るのに協力してくれるの?」

「そうだよ」

 信じられない。ここから出られるなんて何度夢見たことか。

 今度こそしっかりとした希望を目の前にちらつかされて、私はいてもたってもいられなくなった。今すぐにここから出て、屋敷のものたちの手の届かないところへ逃げてしまいたい。

 はやる気持ちが伝わったのか、アンディがいさめるように言う。

「早く出たいだろうけど、計画があるんだ」

「計画?」

「そう。俺はランズウィック家を倒す」

「!」

 アンディの顔は真剣で、間違っても今言ったことは嘘でないと語っている。

「そんなことできるの?」

「やらないと、これからも犠牲者は増えていく。今まで実行しなかったのは俺の力が足りなかったからだ。でも今はエレンと、もう一人味方がいる」

 自分も味方に数えられているのか。

 とんでもない大仕事を背負わされたりするのだろうか。

「前に、俺は五本指の一人、中指だって言ったけど、小指が味方になってくれるんだ」

「小指……」

「ものすごく身軽で頭の回転も速い。頼りになる奴だよ。エレンと同じくらいの少年だ。カールって言うんだけど、実は今エレンの身代わりをしてる」

「どういうこと!?」

「この部屋は実は生贄の部屋ではないんだ。最初に来たとき、階段を下りて左にもう一つ扉があったのを覚えてる?」

 ふるふると首を振る。

「ううん、覚えてない。下しか見てなかったから」

 アンディがどれほどわたしを心配してくれるかよくわかっているので、努めて明るく言う。

「……そっか。まあとにかく、この部屋の向かい側にもう一つ部屋があるんだ。そこにカールがエレンのふりをしている。そうする理由は、"薬指"が毎日毒を飲ませにくるからだ。飲むたびにじわりじわりと弱っていき、やがて自分の意志を失ってしまう毒ーーカールにはあらゆる毒への耐性があるから何ともない。だから彼に身代わりになってもらってる」

「そんな……」

 そんな、ことが。平気だとはいっても私の知らないところで体を張ってくれている人がいるとは。

「あの、今の話だと、私には何か役目があるの? 私が弱ったら困るみたいだけど……」

「あのさ、エレンが弱ったら俺が嫌だよ」

 アンディが顔を近づけてきた。右目に少しかかった前髪が触れそうだ。私は一気に赤面した。アンディに近づかれるとどうしようもなく緊張するというか、落ち着かない気持ちになる。こんなことはこれまでなかったのでどう対処していいかまったくわからない。とりあえず一歩後ろに下がって距離を取ると、だいぶ心臓の鼓動が遅くなった。

「いやあの、何か意味があるのかなって……」

「エレンは生き証人なんだよ」

「私が?」

「今までのランズウィック家の悪事の証人はみんな死んでしまったからね」

「……私も、アンディがいなかったら殺されるところだったんだ」

「そのために俺がいるんだよ」

 おねがいだから、その熱っぽい視線はやめてほしい。

「ランズウィック家はとんでもないことをしているけれど、よそへの影響力は侮れない。これだけ人を誘拐していても誰も何も言わない。まあ証拠を残さないからなんだけど。それで、計画はーー」

 アンディは少し声を潜めた。

「儀式の当日は屋敷の警備がかなり手薄になる。というか警備がなくなる。神聖な儀式の日は、武器を手にしたものは屋敷の外に出る決まりなんだ。つまり絶好のチャンスなんだよ。儀式の行われる広間にはたくさんの炎が焚かれるから、エレンのふりをしたカールが祭壇に連れて行かれた時、執行人を襲って屋敷に火を放つ。主人は確実に仕留めて、向かって来るのがいたらそれも。使用人たちには危害を加えない。なるべく早く逃げてもらう」

 アンディの言葉を聞いてりつぜんとする。

 この大きな屋敷に火をつける? そんなことしたらたいへんな火事になる。もしランズウィック家の悪事に対する報復だと信じてもらえなければただではすまない。

「そんなの危ないよ! うまくいかなかったらたいへんなことになる」

「やらないとエレンは生贄にされるんだよ? いや、エレンだけでなく来年連れてこられる生贄も。罪悪感なんか感じなくていい、何人も殺してきた家系なんだから潰れて当然だ。今もどうしてこうやってのうのうと過ごしているのか不思議でたまらない」

 唇をかんだ。何を言ったってアンディは聞かないだろう。

 なら、協力するしかない。

「……私には、何ができる?」

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