↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歩く速さで  作者: 雛
PR
7/14

第2章 3

「す~げぇ、緊張してんの。顔が固まってるぞ?」

「こらぁ、牧村。新郎はまだ、花嫁さん見ちゃだめ。後の楽しみにとっとけ」

 控え室をノックもせずに開けて入ってきた康介は、開口一番そう言いながら紗弓を指さして笑っている。紗弓はキッとそんな康介を睨み、軽くふくれた。

「自分だって。自分が緊張してるから、緊張してそうなわたし見て笑い飛ばして、自分の方リラックスしようとしてるでしょ」

「だって責任重大でしょ。俺これから一人の体じゃなくなるんだぜ?」

「……頼むから、ばかなこと言ってないでよ。自分のやりたいようにしてて。そんなんじゃ、わたしの方が気がもたない」

 笑いながらそんなやりとりをしている康介と紗弓を眺めながら、控え室に様子を見に来ていたオグが康介の背中を押してそこから追い出す。互いによく分かっていて、よろしいことだ。この調子できっとずっといくんだろうな、と思って笑ってしまう。学生時代から全然変わっていないような距離感で、ただその関係を呼ぶ名前が一足飛びに変わってしまうのが二人らしくてなおさら笑ってしまう。

 身支度が終わったのを聞いてそこに来ていた征一が康介を引きずり出して紗弓に手を振った。

「二次会の仕度してる連中、張り切ってたから。おかげで式出られるのオレ達二人だけだけど我慢しろな、紗弓ちゃん」

「ううん、ありがとう。それ、適当に何とかしといて」


 普段化粧っけのない紗弓が、プロの手でメイクをされ、純白のウェディングドレスを着ている。いつも通りより少しテンションが高いだけのような顔をしていた康介は、すっかり自分の方の緊張は見抜かれてしまっていた。

「いい組み合わせだよ、お前ら。今さらながら」

「当たり前だろ。俺が決めたんだから」

「……自信家め。しかし紗弓ちゃんてやっぱりかわいいよな」

「やっぱり?」

「思わない?」

「どうでもいい。でもまあ、手、出すなよ」

「あほか。……お前大学の頃から紗弓ちゃんに関しては独占欲強かったよな?」

「は?」

「自覚なしか。やっぱり。お前の彼女よりも、紗弓ちゃんの方に手、出した方が牧村に怒られるからってまことしやかに囁かれていたよ」

 康介はそんな征一の言葉を笑いながら聞く。こんな成り行きなのに、不思議なくらいにとんとん拍子に話が進んで、あっけないほど早くこの日を迎えている。出会って六年目、婚約期間は二ヶ月弱。付き合っていた彼女と別れてほぼ二ヶ月。普通に聞けば、なんて奴だと思うようなことだけれど。


 当然モデル体型なんかではないけれど、割と綺麗な体型の紗弓が、綺麗なラインのウェディングドレスを着て赤い絨毯の上を歩いていく。少しだけ背は高めで、ほどよいやせ形で。

 赤い絨毯の先には、これから一緒に、幸せを作るために歩こうと決めた人が待っている。本当は、親にも兄弟にも、付き合ってはいなかった友達と結婚すると言った時に呆れられた。紗弓も、康介も。ただ、二人一緒に会ってみたら、結局家族は納得した。変わり者同士なんだよ、と笑いながら。だったら人とは違うだろうから、変わり者同士でちょうどいいんだよ、と。

 長身で、骨格からがっしりしているような康介に手を取られ、紗弓は並んで立つ。人前結婚式を選んだ。誰に誓うよりも、自分達が与えられてきた家族を離れ、自分の家族を作ると決めたその門出に呼ぶと、自分達が選んだ人たちに誓うのが一番自分達にとって重みがあると、二人の意見が最初から一致していたから。

 家族は、それに少しだけ、難色を示したけれど。理由を言えばきちんと納得してくれた。

 誰よりも、そこに列席した人たちが保証する。二人はきっと、幸せになる。この選択を後悔したりしないだろうと。

 人前でなんて泣けないと、そんな紗弓が幸せがこみ上げてきたような、感極まったような顔で康介を見上げて少しだけ、その肩に顔を埋めた。また、顔を上げた時には、いつもと変わらない笑顔だったけれど。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。