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この病院、治ります。ただしーー  作者: アル治


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第6話  異常なし

いつも読んでいただきありがとうございます。

 サイレンは鳴らなかった。

 通報の内容は曖昧だったからだ。

 「人が消えた」「中がおかしい」——それだけ。

 だが、失踪が重なれば話は別になる。

「ここか…」

 1台の車が、病院の前に止まる。

 降りてきたのは2人。

 刑事、マークスと、その部下。

「……普通だな」

 マークスは建物を見上げる。

 古びてはいるが、異様な点は見当たらない。

「通報者は?」

「不明です。録音もノイズが多くて……」

「チッ……」

 自動ドアが開く。

「いらっしゃいませ」

 受付の女性が、いつも通りに立っていた。

「警察だ」

 バッジを見せる。

「少し話を聞かせてもらう」

 女性は一瞬も動じない。

「どうぞ」

 それだけだった。

 病院内は、静かだった。

 患者はいる。

 スタッフもいる。

 “普通の病院”にしか見えない。

「……で?」

 マークスは低く言う。

「最近、ここに来た人間が何人か消えてる」

「そのような事実は確認されておりません」

「泥棒が2人、入ったって情報もある」

「お答えできません」

「記者は?」

「お答えできません」

 すべて同じ答え。

 だが、その表情は一切崩れない。

「……治るって話は本当か?」

 一瞬だけ、空気が変わる。

 女性はゆっくりと答える。

「はい。治ります。」

 マークスは眉をひそめる。

「何をもって“治る”って言ってる?」

「お答えできません」

 沈黙。

「……中、見せてもらうぞ」

「どうぞ」

 あまりにもあっさりとした返答だった。

 廊下を進む。

 どの部屋も、異常はない。

 普通の患者。

 普通の治療。

 だが——

「……妙だな」

 部下が呟く。

「何がだ」

「みんな……元気すぎませんか?」

 確かに。

 重病患者のはずなのに、どこか顔色が良すぎる。

 そして——

 視線が、合わない。

 こちらを見ているようで、見ていない。

「……気のせいだ」

 マークスはそう言った。

 だがその時。

 廊下の奥に、人影が見えた。

 男が1人、壁にもたれている。

「おい」

 マークスが声をかける。

 男がゆっくりと顔を上げる。

「……何してる」

 男は、ぼんやりと答える。

「……待ってる」

「誰をだ」

「……分からない」

 その言葉に、部下が顔をしかめる。

「名前は?」

 一瞬、間。

「……」

 男は口を開き——

「……ああ……俺か」

 ズレた返答。

「……行くぞ」

 マークスはそれ以上追及しなかった。

 その後も、調査は続いた。

 だが——

 何も出ない。

 記録も正常。

 患者数も合っている。

 “消えた人間”の痕跡だけが、最初からなかったことになっている。

「……以上だな」

 外に出る。

「どうします?」

「……報告は“異常なし”だ」

「でも……」

「証拠がない」

 それで終わりだった。

 車に乗り込む。

 エンジンをかける。

 その時。

 マークスの手が、一瞬止まった。

「……」

 ハンドルを握る。

 違和感。

 指の感覚が、少しおかしい。

「……疲れてるだけか」

 軽く握り直す。

 その瞬間。

 指が、一瞬だけ“多く見えた”。

「……は?」

 瞬きをする。

 元に戻る。

「……気のせいか」

 隣の部下が言う。

「顔色悪いですよ」

「……そうか?」

「ええ。なんか……さっきから変ですよ」

「何がだ」

「その……」

 言いかけて、やめる。

「……いや、なんでもないです」

 車は発進する。

 その背後で。

 病院の自動ドアが、静かに開く。

 受付の女性が外を見ていた。

 その視線の先には——

 去っていく車。

 そして、ゆっくりと呟く。

「A-18……進行中」

 その夜。

 マークスは自宅の鏡の前に立っていた。

 ネクタイを外す。

「……」

 鏡の中の自分を見る。

 問題はない。

 普通だ。

 だが——

 瞬きをした瞬間。

 顔が、わずかに“ズレた”。

「……っ!!」

 もう1度見る。

 元に戻っている。

「……なんだよ……」

 息が荒くなる。

 鏡に手をつく。

 その手が——

 一瞬だけ、増えた。

 翌日。

 病院には、新しい患者が来ていた。

「助けてくれ……」

 受付の女性は、微笑む。

「はい。治ります」

 その裏で。

 誰かが、ゆっくりと歩いている。

 足音が——

 少し、多い。

第6話読んでいただきありがとうございます。

次でラストになります。

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