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この病院、治ります。ただしーー  作者: アル治


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5/7

第5話  どちらでもないもの

いつも読んでいただきありがとうございます。

 息が、できなかった。

「……はぁ……はぁ……」

 泥棒Bはその場から1歩も動けずにいた。

 目の前には——

 倒れた仲間と、起き上がった“患者”。

 どちらが生きていて、どちらが死んでいるのか。

 もう分からない。

「……おい……」

 声が震える。

 倒れているAは、動かない。

 だが、死んでいるのかどうかも分からない。

 一方で。

 “患者”は、ゆっくりと足を床につけた。

 ギ……と、関節が鳴るような音。

 立ち上がる。

 不自然に。

 まるで、体の使い方を思い出しているように。

「……なあ」

 声がする。

 Bの肩が跳ねる。

 その声は——

 Aの声だった。

「……は……?」

 “患者”が、こちらを見る。

 焦点の合わない目。

 だが確かに、Bを捉えている。

「……なんで……そんな顔してんだよ」

 笑う。

 その笑い方は、完全にAだった。

「おい……冗談だろ……」

 Bは後ずさる。

「お前……A……だよな……?」

 問いかける。

 一瞬の沈黙。

 そして——

「……ああ」

 “それ”は頷いた。

「俺だよ」

 だが、その言葉と同時に。

 床に倒れていた“本来のAの身体”が、わずかに痙攣した。

「……っ!!」

 Bの喉が詰まる。

 視線が、2つ交互になる。

 立っているA。

 倒れているA。

 同じ“存在”が、2つある。

「……なあ」

 立っている“それ”が、ゆっくりと近づく。

「どっちが本物か、分かるか?」

「来るな……!!」

 Bは叫ぶ。

 だが足が動かない。

 逃げなければいけないと分かっているのに、身体が言うことを聞かない。

「……怖ぇのか?」

 目の前まで来る。

 その顔は、確かにAだ。

 だが。

 何かが、決定的に違う。

「……なあ」

 “それ”が、首を傾げる。

「お前、どっちだ?」

「……え?」

「“残る側”か、“なくなる側”か」

 意味が分からない。

 だが、その言葉と同時に。

 Bの胸が、締め付けられるように痛んだ。

「ぐっ……!!」

 膝をつく。

 呼吸が浅くなる。

 視界が歪む。

 その一方で——

 “それ”の呼吸が、さらに安定していく。

「……ああ」

 “それ”は、納得したように頷く。

「そっちか」

「やめろ……!!」

 Bは必死に手を伸ばす。

 だが、その手は届かない。

 代わりに——

 床の“本来のAの身体”が、ゆっくりと動き出した。

 指が動く。

 腕が震える。

 そして。

 目が開いた。

「……っ!!」

 Bの視界が完全に崩れる。

 立っているA。

 倒れていたA。

 そして自分。

 3つが、同時に存在している。

 だが。

 そのうち1つは、もう“人間ではない”。

「……なあ」

 2つの視線が、Bに向く。

「お前は、どれだ?」

 その時。

 ドアの外で、足音が止まった。

 カツ、カツ。

 静かなノック。

「失礼します」

 受付の女性の声。

 ドアが開く。

 その瞬間。

 部屋の空気が——

 すべて“元に戻った”。

 ベッドには1人。

 倒れているのは——

 泥棒B。

 もう1つのベッドには——

 静かに眠る患者が1人。

 Aの姿は、どこにもない。

「……A-18」

 女性はファイルを開く。

 ゆっくりと、ペンを走らせる。

 「進行中」

 その頃。

 病院の外。

 記者は、建物を見上げていた。

「……何かがおかしい」

 ポケットの中の録音機を握る。

「中で、何が起きてる……?」

 その時。

 背後から声がした。

「——お探しですか?」

 振り返る。

 そこには——

 見覚えのある顔。

 だが、名前が出てこない。

「……誰だ?」

 男は、ゆっくりと笑う。

「さあな」

 その笑い方は——

 どこか、“泥棒A”に似ていた。

5話も読んでいただきありがとうございます。

今後もよろしくお願い致します。

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