第4話 3人目
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裏口から入った廊下は、やけに長かった。
「……なあ、戻れるよな?」
泥棒Bが何度言ったか分からない同じことを聞く。
「戻れる戻れる。ビビりすぎだって!」
Aは軽く笑いながら歩く。
だがその足音は、どこか落ち着かない。
廊下の奥。
薄暗い光の先に、ドアが1つだけあった。
プレートには番号。
「A-18」
「……いかにもって感じだな」
Aがドアノブに手をかける。
「待てって……」
Bの制止を無視して、ゆっくりと開く。
中は——
静かな病室だった。
ベッドが2つ。
1つには、誰もいない。
もう1つには——
意識不明の患者。
呼吸器の音が、一定のリズムで鳴っている。
「……なんだよ、普通じゃん」
Aは拍子抜けしたように言う。
「いや……普通じゃねぇだろ」
Bは後ずさる。
「こんなとこ勝手に入って……」
「だから何もねぇって」
Aは部屋の中を物色し始める。
「金になりそうなもん……っと」
引き出しを開ける。
何もない。
「ちっ……」
その時。
背後でドアが閉まった。
バタン!
「……おい」
Bが振り返る。
ドアは完全に閉まっていた。
「さっきから勝手に閉まるんだけど……」
「オートだろ」
Aは気にしない。
「それよりさ——」
ふと、ベッドの患者を見下ろす。
「これ、もしかしてアレじゃね?」
「アレって何だよ」
「1晩で治るってやつ」
Bの顔色が変わる。
「……やめろよ」
「いや、考えてみろって」
Aはニヤリと笑う。
「普通は2人でやるんだろ?」
「……多分な」
「じゃあ3人ならどうなる?」
沈黙。
「……は?」
「3人なら、死ぬ確率減るんじゃね?」
「いや、そういう問題じゃ……」
「つまりさ」
Aは肩をすくめる。
「俺たち、死なねーんじゃね?」
その言葉に、Bは何も返せなかった。
代わりに——
ピッ……ピッ……という音が、少しだけ乱れた。
2人の視線が、同時に患者へ向く。
「……今、動いたか?」
患者の指先が、わずかに震えた。
「やめろって……」
Bの声が震える。
Aは1歩近づく。
「……面白ぇじゃん」
その時。
部屋の電気が、一瞬だけ暗くなった。
チカッ——
そして、戻る。
「……今の何だよ」
Bが呟く。
返事はない。
ただ、心電図の音が——
さっきより、わずかに早い。
ピッ、ピッ、ピッ……
「なあ……やっぱ帰ろうぜ」
「まだ何もしてねぇだろ」
「いや、なんか……おかしいって」
Bはドアに手をかける。
ガチャ。
開かない。
「……は?」
もう1度回す。
ガチャ、ガチャ。
開かない。
「おい、開かねぇぞ!」
「壊れてんだろ」
Aが適当に言う。
「壊れてるってレベルじゃねぇって!!」
その時。
患者の目が、開いた。
ゆっくりと。
だが焦点は合っていない。
「……っ!!」
Bが息を呑む。
患者の口が、わずかに動く。
「……ぁ……」
声にならない声。
Aは逆に笑う。
「おいおい、マジで起きたじゃん」
だがその瞬間。
Aの身体が、ピクリと止まった。
「……?」
「どうした?」
Bが聞く。
「……なんか……」
Aは自分の胸に手を当てる。
「……息、しづら……」
言葉が途切れる。
同時に——
患者の呼吸が、安定し始める。
ピッ……ピッ……
ゆっくりと、落ち着いていく。
「おい、やめろよ……」
Bが後ずさる。
Aの顔色が、目に見えて悪くなる。
「ちょっと待て……これ……」
Aは何かを言おうとして——
そのまま、膝をついた。
「おい!!」
Bが駆け寄る。
だがその時。
患者が、ゆっくりと上半身を起こした。
呼吸器が外れる。
音が止まる。
静寂。
「……は?」
Bの視界が、揺れる。
目の前には——
立ち上がろうとする“患者”と、倒れていく“仲間”。
どちらが生きているのか。
分からなくなる。
そして。
患者の口が、ゆっくりと開く。
「……なあ」
その声は——
どこか……
Aに似ていた……
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