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この病院、治ります。ただしーー  作者: アル治


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2/7

第2話  いつも通りの朝……?

読んでいただきありがとうございます。

 朝は、静かにやってくる。

 特別な音も、騒ぎもない。

 ただ、病院の廊下に規則正しい足音が響くだけだった。

 カツ、カツ、カツ。

 白衣の女性——昨夜レイモンドを案内した受付の女は、いつもと同じ時間に廊下を歩いていた。

 手には、薄いファイルが1冊。

 表紙には何も書かれていない。

 彼女はある病室の前で足を止める。

 プレートには番号だけ。

 「特別室:A-17」

 ドアの前で1度だけ、軽くノック。

「失礼します」

 返事は、ない。

 だがそれも——

 いつも通りだった。

 ドアが開く。

 カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいる。

 ベッドは2つ。

 そして——



 1つは空。

 もう1つのベッドには、男が座っていた。

 レイモンド・クラーク。

 昨夜とは別人のように、顔色は良い。

 呼吸も落ち着き、肌の色も健康そのものだった。

 彼はゆっくりと自分の手を見つめている。

 指を動かし、握り、開く。

「……治った……?」

 その声は、どこか他人事のようだった。

「おはようございます」

 女性が静かに声をかける。

 レイモンドはゆっくりと顔を上げた。

 その目は——

 ほんのわずかに、焦点が合っていない。

「……ああ……」

 返事はするが、反応が遅い。

「ご体調はいかがですか?」

「……問題ない……と思う」

 “思う”。

 その言い方に、わずかな違和感が混じる。

 女性は1歩だけ近づき、空いたベッドに視線を向ける。

 シーツは乱れていない。

 血も、争った跡もない。

 まるで最初から、誰もいなかったかのように。

「本日の治療は、これで終了となります」

 女性は淡々と告げた。

「……そうか」

 レイモンドは立ち上がる。

 ふらつきはない。

 むしろ、昨夜よりも軽やかに見える。

「……あいつは?」

 不意に、レイモンドが聞いた。

「どなたのことでしょうか?」

 一瞬の間。

「……いや」

 レイモンドは首を振る。

「なんでもない…」

 女性は何も言わず、ただ小さく頷いた。

 彼女はファイルを開く。

 そこには簡潔に、こう書かれていた。

 A-17:完了

 それだけだった。

「お会計はこちらになります」

 提示された金額を見て、普通の人間なら息を呑むだろう。

 だがレイモンドは——

「……ああ」

 何の迷いもなくカードを差し出した。

 処理が終わる。

「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」

 その言葉に、レイモンドは一瞬だけ動きを止めた。

「……また?」

 女性は微笑む。

「はい。何かあれば、いつでも」

 レイモンドは何も言わず、背を向けた。

 自動ドアが開く。

 朝の光が差し込む。

 彼は外へ出る。

 その瞬間——

 ほんの一瞬だけ、足を止めた。

 振り返る。

 病院の看板。

 名前のない建物。

「……どこだ、ここは」

 そう呟いたが、すぐに首を振る。

「……まあいいか」

 そして歩き出す。

 その背中は、どこか軽い。

 だが同時に——

 何かが“欠けている”ようにも見えた。

 彼が去った後。

 女性は静かに受付に戻る。

 別のスタッフが声をかけた。

「A-17、終わった?」

「はい。問題なく」

「そう。次、来る?」

「本日中に1件」

 まるで、予約された客のように。

 いや——

 実際にそうなのだ。

 女性は新しいファイルを手に取る。

 そこには、こう書かれていた。

 A-18:準備中

 その頃。

 レイモンドは車に乗り込み、エンジンをかけていた。

 ハンドルを握る手が、ふと止まる。

「……」

 何かを考えようとして——

 やめる。

「……どうでもいいか」

 そして、笑う。

 その笑い方は——

 昨夜、ベッドの上で眠っていた“誰か”に、よく似ていた。

2話も読んでいただきありがとうございます。

今後もよろしくお願い致します。

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