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「…………すごい、ひろい」
「そりゃアストラル鉄道の全てが集まる駅だからね。一応は大国が保有する一番大きな交通の要衝でもあるし」
列車に揺られ五日ほど。
途中で乗り換えをすることなく、一行は王都メルリナへと辿り着いた。
サレンは豪華絢爛な駅舎に圧倒されながら、シルフィに背中を押されて前へと進む。
先頭を歩くのは、まるで自分の庭かのように堂々と歩くホムラだった。
「シルフィの言う通りなら、泊まる宿は気にしなくていいんだっけ?」
「はい。アルクメネ家と繋がりのある家に、観光客の宿泊を目的とした宿を経営している者がおりまして。数日であれば部屋を貸すことはできると承諾を得ています」
「分かった。先に荷物を置いて、今日は大図書館へ下見に行きましょう」
元より数日を王都で過ごす予定だったため、衣類などを含めた荷物を両手で抱えていた。
一部はライネの友だちである使い魔が抱えているが、気絶したままのトアをホムラが担いでいるので余裕はない。
「ホムラちゃん、トアさま担ごうか?」
「いや、いいわ。コイツそんなに重たくないし、むしろ荷物とか任せきりでごめん」
「ううん、気にしないで。ウチがしたくてしてるだけだから」
内気で人見知りなライネですら、人でごった返す駅舎に怯える素振りすら見せなかった。
というよりも、サレン以外は割と変わらなかったりする。
「サレンちゃん、手と足が同時に出てるわよ?」
「だだだって、こんな人だかり、地元のお祭りでも見たことないよ?」
「大袈裟ね。密度だけでいえば本校の入学式と大差ないと思うけれど」
「あれと一緒にってのは、っとと…………」
「ほら、ぶつからないように気を付けて。手、繋ごうか?」
スッと差し出されたシルフィの手に、サレンはしがみつくように両手で掴んだ。
「ごめん。私、こういう人だかり苦手っぽい…………」
「いいわよ。ちゃんと掴んでてね」
顔を真っ青にして縋りついてくる姿に、シルフィは少しだけ意外に思いつつも口元を少し緩めた。
(サレンちゃん、普段は割と甘えん坊なのに、こんな風に頼ってくれることが少ないから。なんだかちょっとだけ新鮮)
本人が悪いと思っているか、あるいは単に偶然なのか。
サレンは誰かに助けを求める一方で、自分の不始末を尻拭いさせることを求めようとしない。
ある意味で世渡り上手と言える性格だ。
頼られる側は気分がいいところまで助力できるので、その後がどうであれ遺恨が残りにくい。
仮に失敗したとしても、どうしていう通りにやらなかったのかと不満に思うほどは関わらせないとも言える。
シルフィはそんなサレンの機微を理解していたし、それで構わないと思っていた。
どこか自罰的で、それでも飽くなき向上心を備え心身を削れるところこそ。
サレンという人物を好きになった、一番の要因なのだから。
(でも…………こういうのも悪くはないかな)
だけど、だからといって頼られて嫌ということはない。
むしろ頼ってほしいし、もっと助けたいと思っている。
だからシルフィは植物科の許可を取らず、精霊科の生徒らと行動し王都まで来ている。
「わっ、なんか走ってる?」
「自律型四輪輸送機。馬車の荷車に魔法を施して、魔法を動力源に移動する魔法具の一種ね」
王都メルリナは、かくも壮大で発展した都市だった。
完璧に舗装された路面に、的確に区分けされた道路。
建物は等しく十階建てを超え、隙間なく並ぶ様は巨大な森林を連想させる。
かと思えば背丈の低い植木が規則的に整備され、近くには緑色の塗料が塗られたベンチが配置。
ゴミ箱や街灯、街の案内板らしき掲示板もあちこちに設置されている。
「…………なんだか、同じ国とは思えないかも」
「それは、私も同感」
サレンの故郷は朴訥とした片田舎だ。
農業で生計を立てている家が集まり村を形成しているため、そもそも重層建築を必要とする状況がまずない。
別に、サレンは故郷が嫌いではない。
好き嫌いでいえば普通、強いて言えば考えたことがない程度。
だから、何もかもが違う都会を前にしても、優劣を判定しようとは思わなかった。
「いいなって思った?」
「別に、そうは思わないけど…………」
それでも、サレンの中に紐のような何かが絡まった感覚がしたのは事実で。
「こんな建物が沢山あるんだったら、もうちょい私たちのためにお金を使ってほしいって思っただけ」
毎日汗水働いても、まるで楽にならない生活を知っているからこそ。
サレンは脱力するような、どこか遠い国の写真を見ているような気分になる。
「なにボケっとしてるの?」
「よかったです。何かトラブルに巻き込まれたのかと」
サレンとシルフィが来ないのに気づき、慌てて戻ってきたのだろう。
ホムラは呆れた様子で声をかけ、ライネは嬉しそうに笑みを浮かべている。
「ごめん。ちょっとびっくりしたっていうか…………王都に来たのも初めてだから…………」
「へぇ、ちょっと意外ね。あなた、こういうところに来てそうな顔してるのに」
「来てそうな、顔?」
「気にしないでいいわ。それよりも、早く荷物を置きに行きましょう。どのみち今日で全部は調べられないけど、軽く下見くらいはしたほうがいいわ」
どこか急かすようにホムラが再び歩き出したので、サレンはシルフィの手を離すとそっとライネに声をかけた。
「ライネさん、ホムラさん何か焦ってません?」
「えっと、焦るっていうよりも、必死なだけなんだと思う」
「必死?まぁ、調べるのは大変だけど…………」
なにしろクライドラ王国が管理している大図書館だ。
具体的な大きさは知らないが、それでも一日で全てを網羅できないことぐらいは容易に想像できる。
すると、ライネは小さく首を横に振ると。
「調べるよりも、侵入するほうが大変だから」
「……………………はい?」
「まさかと思いますけど、魔法統括局の許可を取っていないんですか!?」
呆けるサレンを横に、愕然とした表情でシルフィがそう尋ねた。
ただ、関係が浅く、なんならシルフィの声がひときわ大きかったのもあってか、ライネは肩を大きく竦ませ視線を激しく泳がせた。
「で、でも!ウチらがその、正直に申請を出しても承認されないというか…………はっきり言って精霊科ってだけでクライドラ王国の魔法設備は使用禁止だから…………でも、でもね!何か壊すとか、粉々にするとか、そういうことはしないから!」
「…………それは、当然のことでは?」
「ひぅ!?ご、ごめんなさい、そうですよね…………」
この時、サレンは静かに悟った。
人間、嫌われるのには理由があるんだな、と。




