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余計な情報が沢山出てきたが、それでもやることに変更はない。
サレンは一時閑話となった客室から離れると、車両と車両の繋ぎ目にある小さな空間で大きく背伸びをした。
(『疲れたか?』)
(『疲れたっていうか、つくづく精霊科の人たちって予想外のことをするなぁって』)
今のロアは人形よりも更に小さく。
サレンの親指と大差ないほど体躯を縮小させ、制服の胸ポケットに息を潜めていた。
(『ロアはどう思う?序列持ちの精霊はともかく、さっき出てきた陣営の話とか聞き覚えあったりした?』)
(『いや、どれも小生には記憶にないものだったな。とはいえ、地理的な条件だけでいえば、恐らくは八大名家とやらは関係があるとは思うが』)
(『そういえば、前にシルフィも似たこと言ってたっけ』)
ロアが封印されていた巻物は極東の西側にある国だという。
ざっくりとした地図は出てくるが、具体的な地名までは覚えていないサレンは、頭上を睨んだあとで思い出すのを諦めた。
(『ひとまず、そちらは無視で構わんであろう。分からぬままであっても、現状は然したる問題にはならん』)
そろそろ戻ろうと、サレンはゆったりとした足取りで元居た客室へと歩き出す。
(『だが、例の『天使』が同類たちとの契約に関係していることは。はっきりいって因果関係がまるで不明だ』)
(『え、そうなの?』)
てっきりサレンは、『天使』と序列持ちの精霊には何か只ならぬ関係があるのだと思っていた。
それは『天使』と邂逅した時や、今こうして話している口調から分かることだとサレンは思っていたが。
(『こういってはなんだが、『進化』以外にも契約をしている同類は多くいる。むしろ未契約のままでいるほうが遥かに少数だ』)
「マジで!?」
(『…………盟友よ、声が出ておる』)
傍から見れば歩きながら急に叫んだヤバイ女生徒だ。
しかも制服を見れば、魔法学校の生徒だと一目で分かる。
サレンは「すみませんでした」と謝ったあと、駆け足で次の車両へと移ると。
(『…………それは、ユダって人以外にもいるってこと、だよね?』)
(『無論だ。小生らは互いに互いの存在を認知することができる。とはいえ、あくまでなんとなく程度ではあるがな』)
(『だったら、帝国はなんで『天使』を秘密裏に使ってるの?』)
(『それが分かるのならば、先の会話で話しておる』)
(『…………ま、そりゃそうか』)
少なからず、ロアも今の状況が相当に変だという認識はあるらしい。
ただし、サレンが抱いたそれとは根拠が異なっていたが。
(アルゲスタ家って、天体科の中でも指折りの名家で。古い家系を辿れば何人も『原典』を輩出しているくらい、この国では権威ある魔法使いの一族なのに…………)
サレンが精霊ロアと契約したのは、ひとえに失うものが何もないからだ。
他の選択肢を選べないほどの緊急時だったのもあるが、それでもサレンには精霊と契約することでのデメリットが思いつかなかったのも事実。
仮にサレンに人並みの才能があれば、例えあの場面であっても躊躇していたかもしれない。
あるいは、シルフィと共闘し、同じように倒され、既に死んでいたかもしれない。
禁忌よりも優先することがあった。
聞こえはいいが、実際のところは低俗で打算的な思惑があった。
あってなお、サレンは未だに精霊と契約を結ぶことへの確固たるメリットを見つけられていなかった。
「…………チョコ先輩もだけど、人には人の悩みがあるんだなぁ」
「大きな独り言ですね」
完全に不意打ちだった。
ちょうど異なる値段の客室を繋ぐ一室で、人が隠れる程度の隙間があったのも大きいだろう。
なにより、サレンは聞こえた声に覚えがあった。
しかも聞いたのは、極めてつい最近のこと。
「お久しぶりですね。いえ、またお会いしましたというべきでしょうか」
「…………確か、ラシェトを襲った」
「レゾルテアと申します。この前はまともな挨拶もせず、大変失礼をいたしました」
魔法防衛局。
魔法統括局と対になる、クライドラ国の軍事を司る組織の通称。
そこに属する軍人でありながら、魔法学校で催された学科対抗戦に参加者として忍び込んだ張本人。
サレンはここに来る前に、シュラに何があったのか話を聞いていたのだ。
「なんで、ここに?」
「帰郷ですよ。与えられた任務は既に達成しましたので、その報告と休暇を頂くためです」
「他の人は?カナサリって人とか」
「カナサリは別室で眠っていますよ。彼女、乗り物酔いが酷いので、大抵は眠ってやりすごすんです」
偶然なのか、あるいは意図的なのか。
通路用の車両には二人以外の人間はおらず、近づいてくる気配すらない。
普段なら罠を警戒するところだが、レゾルテアの態度を見る限りでは違うとサレンは感じていた。
「ところで、何か悩んでいるとお見受けしましたが…………」
外見はともかく、実年齢はレゾルテアのほうがずっと上だ。
片や学生、片や正規の軍人となれば、自ずと立ち位置は大人と子供になる。
「せっかくの機会です。このレゾルテアでよければ、話くらいは聞くことができますよ?」
「…………何が目的?」
「敢えて言うのなら、カナサリを仕向けたことへの贖罪、ですかね。我々はとりわけ、精霊に対して嫌悪感を抱いておりませんので」
「この国だと禁忌扱いなのに?」
「それはあくまで魔法使いの世界での話です。レゾルテアらには関係ありませんよ」
やけに親切なのは、申し訳なさの表れなのだろうか。
殺し合いをした相手の上司ではあるが、だからとって恨む理由もさほどない。
「じゃあさ、一つ教えてほしいんだけど」
なのでサレンは、探る意味でこう問いかけた。
「チョコ・フォルワって人のこと、何か知らない?」




