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出てきた理由は、サレンとシルフィの想像を遥かに上回っていた。
いや、下回っていた。
「チョコ先輩の魔法具に、改造をした…………?」
「それも秘密裏になんて、どうしてそのようなことを?」
観念した様子で告白するトアへ、ホムラは乱雑に胸倉を掴み上げる。
「往生際が悪い」
「ホムラちゃん、その、ここでの暴力は流石に…………せめて人目のないところで…………」
「ライネ様、そういう問題ではないかと思いますが」
「改造の内容は?」
ライネの発言に思わず突っ込むシルフィを他所に、ホムラはミチミチと音を立てながらトアの胸倉を更に締め上げる。
「…………光って」
「光って?」
「回転しながら、爆散」
「爆散!?」
反射的にサレンはその光景を想像し、記憶にあるチョコ先輩が体の近くで魔法具を扱っていたのを思い出しゾッとする。
そもそもチョコの魔法具は光を帯びた立方体であり、彼女の魔法を補助するためのものだ。
稼働中は回転しているし、百歩譲って光るのは分からなくはないが。
「爆発させる意味、ある?」
「いやなに、チョコ殿から相談を受けておってだな…………」
「へぇ」
完全に殺意に満ち溢れた相槌だった。
投げ捨てるように胸倉を離したが、向ける視線が獲物を狙う肉食獣のそれでしかない。
なんならホムラの周囲に陽炎が揺らめいているので、サレンは客室が燃えるか心配でならなかった。
「相談の内容は?」
「インキュリア王国で戦った時、己の火力不足を嘆いておっての。製造者がトアであるのなら、何か改善できることはないかと聞かれ…………」
「それで?」
膝を突き合わせて話しているが、光景はまんま告白者と尋問官でしかない。
これで薄暗い塔の一室であれば、どこからどう見てもトアが懺悔しているようにしか見えなかった。
「ならば、爆発を伴った攻撃はどうかと、提案をしたのじゃが。まぁチョコ氏からは却下され…………」
「え、却下されたんですか?」
「なら、どうして搭載したんです?というよりも、いつそのような細工を?」
「改造そのものは即座にできるのでな。こう見えても、手の速さには自信があるのじゃよ」
「そうね。無許可でなかったら褒めるだけで済んだけど」
とどのつまり、事の経緯はこういうことだった。
トアはチョコから新たな武器の相談を受け、魔法具本体を爆弾にする機構を提案。
チョコはそれを否定されたが、トアはチョコの目を盗んで勝手に搭載。
そしてそれを外せないまま、今日を迎えたという。
「あなた、やけにサレンに親切すぎると思ってたから、どうせ何かしたんだろうとは思ってたけど…………」
「その解除を忘れてしまったのは、その、ウチから見ても明らかにダメだと思いますよ」
温和で穏やかなライネが終始一貫して憐憫の姿勢を崩さない限り、トアに関するこれは日常茶飯事ではあるらしい。
(よくよく思い返したら、チョコ先輩もトアさんのこと悪く言ってたもんね…………)
なにより、既に三留して学士を授与されているくらいだ。
精霊科に四年も在籍している点を踏まえても、まず真っ当な人格ではないのは確かだろう。
半分呆れつつ、半分は受け入れているサレンに対し、シルフィはどこか釈然としない様子だった。
「爆発…………爆発、か…………」
「シルフィ、そんなに気になるの?」
「気になるというか、そこまでして求める必要性が見いだせないというか…………」
どうやらシルフィはトアが凶行に及んだのか理解したいらしい。
既にそういうものだと納得しているサレンからすれば新鮮だが、多分確実に考えても答えは出てこないとは断言できる。
「トアの暴走は今に始まったことじゃないから、後できちんとシメるとして」
「シメるんだ…………」
「で、チョコは今、メルリナにいるんでしょ?」
殆ど反射的に、だった。
サレンはシルフィが自分を見たのを目撃し、そして全く同時に片手を挙げる。
「…………なに?」
「えっと、何がどうなってるのか分からないっていうか…………」
「そもそも、この話はユダ様の行方を捜すための、その手がかりを求めての訪問だったのでは?」
シルフィの疑問に対し、ホムラは特に表情を変えることなくこう答えた。
「『薔薇』の、シルフィ、でいい?シルフィの言う通り、わたしたちの目的はユダの身柄を捕縛すること。で、こいつはそれを聞いて、ついでに解決しようとしてるってだけ」
「もちろん、全てを任せるつもりはないぞ?あくまで、同行させてもらってる立場じゃからな」
堂々と胸を張ってトアはそう答えるが、大前提としてチョコに関した話は聞いていない。
第一、どうして彼女が王都メルリナにいるのかさえサレンらは知らないのだ。
そうなんだ、じゃあ、せっかくだし一緒に解決しようか。
いくらサレンでも、絶対にそうはならないと断言できてしまう。
「ただ、放置しておくとチョコ氏はユダ氏へ擦り寄るかもしれんのでな。なにせ、彼女の生家のことを思えば、この国に拘る理由はそれほど多くない。むしろ一念発起し脱出するのが理想じゃろうて」
「あんまり、大きな声では言えないですけど」
同調するように、ライネは影を落とした表情で淡々と語りだす。
「精霊科に属するってのは、魔法使いにとっては一生拭えない烙印みたいなものですからね。ウチはその、そうあることを望まれたので構わないというか、実家はそれで喜んでる部分もあるくらいなので…………」
「ライネは一度、親か兄弟と魔法戦をすべきね。上下関係を示したほうがいい」
「ありがと、ホムラちゃん。でもね、それじゃ意味がないんだ」
ライネは自らが『終典』を生み出したことで、ユリツァーノ家から追放処分を受けている。
魔法学校本校へと通わされているのは、その『終典』が二度と子孫から発生しないようにするため。
現時点の魔法では、『終典』は突発的に発生し、前触れもなく消えてなくなるとされている。
未だ変わらない常識だけを見れば、ライネはまだ家族から除け者にされる理由を持ったままだ。
「きっと、チョコさまもそうなんだと思うよ。魔法使いは大小様々だけど、家族との繋がりが大切だって思う人が多いから…………」
「ライネちゃん…………」
「あ、でもね!だからってサレンちゃんが悪いとはウチは思ってなくて!ただ、チョコさまにはきっと、王都メルリナに行った理由があるんだと思うんだ」
ここでどれだけ話をしても、チョコの心情が分かることはない。
ただ、彼女がどうして精霊科を去ったのか。
なぜ、一言も告げずいなくなったのか。
どうして、今このタイミングだったのか。
これらはきっと、時間が経つごとに曖昧になっていくのは違いないだろう。
「どのみち、ユダ追跡にチョコの魔法は役に立つわ。動機を探すのすら癪だけど、トアの改造で迷惑をかければ、巡り巡って精霊科の責任問題にもなる」
ホムラの言葉にトア以外は頷き。
トアはいつの間にか、ホムラに締め落とされて泡を吹いて倒れていた。
「ユダに関する手がかりを探して、チョコを見つけて話を聞く。連れ戻すかどうかは、その時に決めることにしましょう」




