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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第4章 魔法都市メルリナ

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2

 魔法都市メルリナ。

 

 それは魔法学校本校の北北東に位置する、クライドラ王国の首都の総称である。

 

 人口は推定で一千万。

 魔法統括局を含めた国家運営を担う全ての機関が集結していることもあり、非常に多くの人間が密集している大都市である。

 

 そこへ向かうアストラル鉄道の一つ。

 主に上流階級の人間のなかでも、とりわけ裕福な家系に限定された完全個室の客室が存在する。


 三人が横一列で座れる座席が、向かい合わせで二席。

 さながらテーブルを囲むように配置された一つに、サレンはいた。


「チョコ先輩が、魔法統括局の内通者だった…………?」


 ざっくらばんと切られた黒髪に、朗らかさが溢れる笑みが特徴的な少女。

 魔法学校本校の生徒にして、所属は精霊科(シャト)、年次は一回生。


 とある事情で土の精霊序列二位であるロアと契約を結んだ、現在進行形で禁忌を冒している問題児である彼女は。


「いや、だって…………なんでそんなことするわけ?」

「理由はわたしも知らないわ」


 そう答えたのはホムラ・ドラグニル。

 サレンと同じ精霊科の一人にして、元動物科(リエーヴル)二回生。

 龍と人の間に生まれた、数少ない現存する幻想種の末裔である。


「わたしが知ったのは学科対抗戦の前。ちょうどコイツと会った時よ」

「ホムラ氏。その、コイツという言い方は辞めてほしいのじゃがな。これでもトア、という名前があるのだが…………」


 その客席に同伴している人数は、五人。

 ホムラの友人にして元地質科であるライネと、この客席を用意した植物科(ティーグル)のシルフィ。


 そして、最後の一人がトアと名乗った人物だった。


「まぁ、これでも本校の在籍歴は長いのでな。色々と知る機会があった、とだけ知ってくれれば困ることはない」

「いや、だからって…………」


 トア・アルベルド。

 外ハネの強いオレンジに、黄緑色のまだら模様が入った髪色。

 瞳は独特の色味を放っており、恰好はブカブカの白衣がサレンの目を大きく惹く。

 

 だが、今はそんな容姿を気にする場面ではなかった。

 少なくとも信頼していいのかと迷うシルフィを他所に、サレンは噛みつくようにトアにこう尋ねる。

 

「チョコ先輩が、なんでそんなことしてるわけ?というか、チョコ先輩が今どこにいるのか知ってるの?」

「それは知らんが、既に本校を去っているのは確かじゃな」

「…………っ、なら!」

「じゃが、それはチョコ氏の自己意思でやったこと。サレン氏が拘泥し、現状を放棄する理由には一切ならん」

「っ、それは…………そうだけど」


 僅かに浮いた腰をふかふかのシートに降ろしてから、サレンは確かめるように事の経緯を口にする。


「私たちの目的は、天体科(スリス)第一席のユダ・アルゲスタを探し出して、捕縛すること。そのためには、まず序列持ちの精霊をいつどこで入手したのか、第三者の手引きがなかったかを調べる。そのために、王都メルリナにある大図書館に行く。ここまでは合ってるわよね?」

「その通りよ。できるならユダの行き先まで分かれば最高だけど、それは厳しいと思うわ」


 ホムラはそう言うと、ライネへと視線を向けてからこう続ける。


「大図書館はクライドラ王国が公認した全ての書物が保管されている。でも、それはあくまでクライドラ王国にとって都合のいいものに限定されてるわ。つまりは、精霊に関する表向きには流通していない記録がある可能性は、実際はそこまで高くない」

「それならば、どうして…………?」


 シルフィがそう尋ねると、ホムラの代わりにライネがこう答えた。


「理由はいくつかあるのですが、一番はオゾアさまから距離を取ることです。オゾアさまは、その、トアさまを憎悪しておりまして、必要な情報を手に入れるまでは離れたほうがいいんです」

「憎悪、ですか?」

「毎年オゾアさまの暴走を止めているのは、実はトアさまなんです。トアさまが学士を授与されているのも、そこに対する功績が大きくて…………」


 語るライネの視線に合わせ、サレンとシルフィは右斜め前に座るトアを見遣ると。


「できることならば、勘弁してもらいたいのだがね…………」

「無理でしょ。オゾア、完全に狙いをあなたに絞ってるもの。おかげで精霊科全員が狙われてる始末だし」

「…………最初は開発費用を工面するためだったものを、味を占めたのが拙かったかのう…………」


 恐らくサレンが入学する前に何かあったらしいが、なんとなく面倒なのは察知できたのでサレンは黙っていた。

 どこか遠い目で虚空を見つめるトアは、ふと我に返るとサレンとシルフィにこう尋ねる。


「いきなりでなんだが、サレン氏とシルフィ氏は『火岸華(ひがんばな)』は存じておるか?」

「ヒガンバナ…………?」

「そういう植物であれば、もちろん存じておりますが」

「確かアレでしょ?南部地域にいる魔法使い殺しの集団。インキュリア王国にも表れたってチョコから聞いたけど?」

「そうなんですか?ウチ、名前しか存じていなくて…………本当に実在してたんですね…………」


 温度感に差のある反応に、トアは一つ咳ばらいをすると。


「ならば、現在の世界情勢と主要国家から説明したほうが早そうじゃな。とはいえ、全てを一度で理解しろというのは酷な話。分からないことがあれば、その都度で説明すれば問題あるまい」

「なに?それ重要?」

「これはレナリアの『観測(かんそく)』によるものじゃが、サレン氏はこれらに大きく関与しておる可能性が高い。むしろサレン氏が鍵であり、全ての始発点と捉えるのが自然じゃな。そこの『薔薇(ばら)』も近しく関係しておるが…………」

「『天使(てんし)』のこと?」


 サレンが口にした、天使という単語。

 それにホムラとライネは合わせるように首を傾げ、トアだけは無表情のまま口を開く。


「さしずめ、『脈動(みゃくどう)』の精霊から聞いたのじゃろうが」

「ユダの体にも『天使』と同じ気配がしたわ。あれはきっと、精霊と契約を結ぶために意図的に体内を弄ってるんだと思う」

「…………そこまで分かってるとなれば、隠し通すのは愚策か」


 観念した様子でトアは大きく息を吐き、改めてこう告げた。


「ユダ氏が序列持ちの精霊と契約していた。この情報は恐らく、既に各国へ流出しておる」

「あそこに目撃者がいたってこと?」

「そこは分からんが。クライドラ王国だけでなく、『帝国(ていこく)』や『教会(きょうかい)』も既に動いておるのは事実じゃな。そしてそれを、魔法大国たるクライドラが見逃す道理がない」


 その言葉で、サレンはトアの言わんとしていることを理解する。


「精霊と『天使』の件に『導師(ロワレ)』の誰かが関与している。簡潔に言えば、裏切者がおるのだ」

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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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