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───────きっとアタシは、ずっと前に〇んでおくべきだったのだ。
だってアタシは、色んなことが人と違ってて。
普通の人ができることを、今でもずっとできないままで。
そんなアタシを、パパとママは愛してしまうのだ。
恵まれている。
大それて裕福でもないし、願えばなんでも叶うほどでもない。
それでも、アタシは紛れもなく幸福で。
生粋の箱入り娘であることを、アタシは自覚していた。
だから、アタシはアタシを恨んだ。
どうして普通に振舞えないのか。
どうして皆と同じようにできないのか。
アタシの言葉でパパのお仕事に迷惑がかかって。
アタシの行動でママのお仕事を台無しにしてしまう。
「…………ごめんなさい」
昔からずっとこうだった。
治そう、治さないと。
そう思っていても、その瞬間にはどうしても忘れてしまう。
これじゃまるで獣だと、そう噂する言葉を耳にしたこともあった。
あれが跡取りではおしまいだと、そう笑われていることもあった。
なのに、変われない。
変えられない。
悪いことをしたという自覚だけあって、そのときだけは悪いと本気で考える。
だから本当に、アタシはアタシを救いようのないクズだと自分を侮蔑していた。
いっそ自分を変える魔法があってほしいと、半分本気で考えたくらいだ。
そうやって積み上げた無数の自己評価が、今のアタシを作り上げた。
誰から言われたわけでもない、言われるような相手もいない。
そんなアタシを、アタシはどうしようもないほどに嫌いだった。
「サレンです。よろしくお願いします」
あの子と出会った時、アタシはこう思った。
あぁ、嫌になるほど似ていると。
自分なら絶対に大丈夫と信じる目。
才能さえあれば、これまでの全てが報われると本気で信じている目だ。
吐き気がした。
同時に、同族嫌悪を覚える自分にも、やはりアタシは呆れてしまった。
「…………もしかすれば、なんて。ほんとに胸やけするほどに甘すぎるわね」
手を貸したのは、単なる打算だ。
アタシはアタシの目的のために、一方的に彼女を利用しただけ。
感謝される謂れも理由もない。
されたいとも思わない。
むしろ嫌ってほしいくらいだ。
なのに彼女は、アタシだけを先輩と呼んだ。
どれだけズレているアタシでも分かるくらい、彼女はアタシを慕ってくれている。
あんな、下心しかない醜悪な動機だったのに。
パパとママにすら本心を明かせないアタシなのに。
彼女は一ミリも疑わず、純粋な尊敬の念をアタシに向けてくれる。
「…………そんな未来、アタシには残されてなかったってのに」
過去はいつだって、アタシの背中を追いかけてくる。
どれだけ後悔したとしても、過ぎたことを変えることはできない。
ましてそれが、アタシの我が儘に起因するものならば。
「…………裏切者の末路としては、上々すぎるわよね」
結局それは、ただの自業自得で。
誰一人として許しくれる理由もない、酷くくだらない末路でしかない。
「やっぱり…………間違ってなかったな」
〇んだほうがよかった。
「こうなるって…………分かってたのに」
〇んだほうがよかった。
「なのにいつまでも…………見苦しいったらないわ…………」
〇んだほうがよかった。
「…………」
〇んだほうがよかった。
〇んだほうがよかった。
〇んだほうがよかった。
「…………分かってるっての」
もう一人のアタシは繰り返す。
そんな勇気もないと知っていて、アタシの耳元でそう囁くのだ。
朝も、昼も、夜も、ずっと。
もう一人のアタシは誰よりも近い位置で、誰よりも聞こえやすい声で。
吐き気を覚えるような声で、アタシを傷つけるために言葉を吐く。
「アンタに言われなくても、アタシが誰よりも知ってる」
だから、これが一番正しい行いなのだ。
これならきっと、パパとママが喜んでくれる。
やっとまともになってくれたと、そう感激してくれる。
彼女たちも、きっと嬉しく思うはずだ。
アタシみたいな邪魔がいなくなれば、学科対抗戦のときみたいに団結できる。
「もう二度と…………今回だけは絶対に間違えられないのよ」
もう、うんざりだった。
いうことのきかないアタシ自身に。
大切な人たちに迷惑をかけてしまうことに。
この年齢になってまだ、夢を見てしまう幼さに。
「…………あぁ、でも」
アタシは思う。
焦げ付くような痛みが、胸の隅を掠めて疼く。
「これでサヨナラは、少し寂しいな…………」
どうしようもないアタシは、押し殺す寸前にそう呟き。
己の意思で己を殺した後、満足げにアタシは笑った。
あぁ、やっと。
アタシは、死ぬことができる、と。




