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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第4章 魔法都市メルリナ

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1

 ───────きっとアタシは、ずっと前に〇んでおくべきだったのだ。


 だってアタシは、色んなことが人と違ってて。

 普通の人ができることを、今でもずっとできないままで。

 そんなアタシを、パパとママは愛してしまうのだ。


 恵まれている。

 大それて裕福でもないし、願えばなんでも叶うほどでもない。


 それでも、アタシは紛れもなく幸福で。

 生粋の箱入り娘であることを、アタシは自覚していた。


 だから、アタシはアタシを恨んだ。

 

 どうして普通に振舞えないのか。

 どうして皆と同じようにできないのか。


 アタシの言葉でパパのお仕事に迷惑がかかって。

 アタシの行動でママのお仕事を台無しにしてしまう。


「…………ごめんなさい」


 昔からずっとこうだった。

 治そう、治さないと。

 そう思っていても、その瞬間にはどうしても忘れてしまう。


 これじゃまるで獣だと、そう噂する言葉を耳にしたこともあった。

 あれが跡取りではおしまいだと、そう笑われていることもあった。


 なのに、変われない。

 変えられない。

 

 悪いことをしたという自覚だけあって、そのときだけは悪いと本気で考える。

 だから本当に、アタシはアタシを救いようのないクズだと自分を侮蔑していた。

 いっそ自分を変える魔法があってほしいと、半分本気で考えたくらいだ。


 そうやって積み上げた無数の自己評価が、今のアタシを作り上げた。

 誰から言われたわけでもない、言われるような相手もいない。

 そんなアタシを、アタシはどうしようもないほどに嫌いだった。


「サレンです。よろしくお願いします」


 あの子と出会った時、アタシはこう思った。


 あぁ、嫌になるほど似ていると。


 自分なら絶対に大丈夫と信じる目。

 才能さえあれば、これまでの全てが報われると本気で信じている目だ。


 吐き気がした。 

 同時に、同族嫌悪を覚える自分にも、やはりアタシは呆れてしまった。


「…………もしかすれば、なんて。ほんとに胸やけするほどに甘すぎるわね」


 手を貸したのは、単なる打算だ。

 アタシはアタシの目的のために、一方的に彼女を利用しただけ。


 感謝される謂れも理由もない。

 されたいとも思わない。

 むしろ嫌ってほしいくらいだ。


 なのに彼女は、アタシだけを先輩と呼んだ。

 どれだけズレているアタシでも分かるくらい、彼女はアタシを慕ってくれている。


 あんな、下心しかない醜悪な動機だったのに。

 パパとママにすら本心を明かせないアタシなのに。

 彼女は一ミリも疑わず、純粋な尊敬の念をアタシに向けてくれる。


「…………そんな未来、アタシには残されてなかったってのに」


 過去はいつだって、アタシの背中を追いかけてくる。

 どれだけ後悔したとしても、過ぎたことを変えることはできない。

 ましてそれが、アタシの我が儘に起因するものならば。


「…………裏切者の末路としては、上々すぎるわよね」

 

 結局それは、ただの自業自得で。

 誰一人として許しくれる理由もない、酷くくだらない末路でしかない。


「やっぱり…………間違ってなかったな」


 〇んだほうがよかった。


「こうなるって…………分かってたのに」


 〇んだほうがよかった。


「なのにいつまでも…………見苦しいったらないわ…………」


 〇んだほうがよかった。


「…………」


 〇んだほうがよかった。

 〇んだほうがよかった。

 〇んだほうがよかった。


「…………分かってるっての」


 もう一人のアタシは繰り返す。

 そんな勇気もないと知っていて、アタシの耳元でそう囁くのだ。


 朝も、昼も、夜も、ずっと。

 もう一人のアタシは誰よりも近い位置で、誰よりも聞こえやすい声で。

 吐き気を覚えるような声で、アタシを傷つけるために言葉を吐く。


「アンタに言われなくても、アタシが誰よりも知ってる」


 だから、これが一番正しい行いなのだ。


 これならきっと、パパとママが喜んでくれる。

 やっとまともになってくれたと、そう感激してくれる。


 彼女たちも、きっと嬉しく思うはずだ。

 アタシみたいな邪魔がいなくなれば、学科対抗戦のときみたいに団結できる。


「もう二度と…………今回だけは絶対に間違えられないのよ」


 もう、うんざりだった。


 いうことのきかないアタシ自身に。

 大切な人たちに迷惑をかけてしまうことに。

 この年齢になってまだ、夢を見てしまう幼さに。


「…………あぁ、でも」


 アタシは思う。

 焦げ付くような痛みが、胸の隅を掠めて疼く。


「これでサヨナラは、少し寂しいな…………」


 どうしようもないアタシは、押し殺す寸前にそう呟き。

 己の意思で己を殺した後、満足げにアタシは笑った。


 あぁ、やっと。

 アタシは、死ぬことができる、と。

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☆☆☆完結済の過去作はこちら☆☆☆
異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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