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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第3章 学科対抗戦

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「で、どうするの?」

「いつも通りなら~、みんなが眠ってる隙に撤収するんだけど~」

「それをしたとて、前後に辻褄が合わんと思うが?」

「そこなんだよね~」


 静まり返った会場は、流石のサレンでも不気味に思えるものだった。

 なにしろ数万人が一斉に、文字通り音もなく沈黙しているのだ。

 よくみれば僅かに肩が動いているので、恐らく気絶しているだけに思えるが。


「あの、よろしいでしょうか」

「お、レナの知らない子がもう一人」

「植物科一回生、シルフィ・アルクメネです。皆さんはその、精霊科の人たちであっています、よね?」


 人たち、にオゾアを含めた辺り、シルフィは一連の出来事が精霊科にとって予期されていたことだと考えているらしい。

 事実、シュラやホムラの態度には緊急時における焦りはなく、むしろ厄介だと分かり切っているようにサレンも見えた。


「あってるわ」


 答えたのはホムラだった。

 恐らく彼女にとっても慣れないことなのか、そう答えてから一度言葉を区切ると。


「こういうのはチョコの役割だってのに。なんで今いないわけ?」

「忘れてた、とか…………?」

「このタイミングで?チョコだってオゾアが来るのは知ってたでしょ」

「だったら、なにかあった、とか?」

「ありえん、とは言い切れん話だな」


 ライネの言葉にシュラはそう答えると。


「事実、会場近くには拙者が戦った人体科の連中がいる。サレン殿も襲われたのだろう?」

「分かるんですか?」

「いや、単なる勘だ」


 いつも通りの返事にシルフィが唖然としているが、慣れたサレンは深く追及はせず。


「チョコ先輩が、そんな簡単に負けることあります?」

「平時なら無いと断言できるが。仮にそうなりそうであれば、相手をこちらに誘導するくらいはしていても不自然ではないか…………」

「あ、あのっ!」


 いつの間にか話が脱線していたからか。

 シルフィは遮るように大声を上げ、そして話を元に戻した。


「その、どういう事情かは分からないので、あくまで私個人の提案なんですけど」


 シルフィはそう前置くと、ギチギチと音を立てる鎖の塊に視線を向け。


「この状況を、精霊科の手柄にするのはいかがでしょうか?」

「シルフィ、それどういうこと?」

「つまりは、オゾア殿を捕縛したところまでを精霊科総出で行ったことにすると?」


 シュラの問いにシルフィは「はい」と返事をし、その概要を語る。


「ユダ先輩が序列持ちの精霊と契約をして、サレンちゃんを襲ったこと。そしてその場にオゾア?先輩が乱入し、それを制圧した。会場で動ける者は精霊科だけで、ユダ先輩には逃げられた。こう説明すれば、きっと周囲も納得せざるを得ないと思うのです」


 会場にいる全魔法使いが行動不能にされた。

 それを行ったのは精霊科の人だが、実際にそれを把握している者は精霊科だけ。

 ましてユダはサレンを閉じ込めるために、尋常ならざる結界を舞台に施していた。


「ま、精霊科に助けられた、なんて他学科は認めないでしょうけどね」

「ですので、それらを含め全てなかったことにするはずです。ユダ先輩の行方が分からないのが気がかりですが…………」

「とりあえず本校からは逃げてるだろうから、その間に忘れてること期待すればいいわ。下手に詮索されて困るのが天体科と人体科なんだから。連中が圧力かければ、わざわざ蒸し返すこともしないでしょ」


 元の性格がこうだからなのか、あるいはチョコが不在だからか。

 ホムラは自然な流れでシルフィと話を進め、全体としての行動指針をまとめていた。


「レナリア、クアムに話をつけてきて。可能なら、ユダが出てくる寸前まで消せると最高だって」

「はいは~い!トアたんにも話してくるね~!」

「だったらオゾアの拘束を緩めるように言っておいて。このままじゃ話もできないし」


 レナリアはウインクと共に姿を消し、それと同時にホムラがひと際大きなため息をついた。


「ほんと、こういうの嫌だ」

「お疲れさま、ホムラちゃん。ウチ、何もできなくてごめんね」

「ライネはいいのよ。どのみち、このなかじゃわたしが仕切るしかないでしょ」

「それで、オゾアさんはどうするの?」


 なんとなく無事なのか心配になりつつあるサレンだったが、ホムラの口調は存外に軽く。


「いつもなら僻地に転送するんだけど」

「…………送られてきた人が可哀想」

「今回は、サレンに交渉してもらうわ」

「……………………え?」


 あんな暴れ牛みたいな人がいきなり現れる光景に同情の念を抱いていたサレンは、おもむろに指示された事実に瞬きを繰り返すことしかできない。


「交渉って、なにを?」

「決まってるでしょ。ユダの行方を捜すためよ」

「…………なんで?」

「捕縛して、学士授与の功績にする」


 疑問符が脳内をカラカラと横切る。

 意味は理解できてしまうせいか、サレンは言葉以上の意味を理解できずにいた。


 するとシュラは小さく嘆息すると。


「ホムラ殿、それでは少し話が端的すぎる」

「そう?これでもかみ砕いたつもりだけど」

「ウチはその、分かりましたけど…………」

「ライネ殿で分からんことは、もはや言葉ですらないと思うがな」


 サレンは一瞬横を向いたが、シルフィも同様に理解できていないらしい。

 いやむしろ、これだけで把握できているシュラやライネが凄いだけに違いない。


「結論だけを言えば、サレン殿が序列持ちの精霊と契約したことは、単なる偶然ではない可能性が高いということだ」


 そんな二人に向けて、シュラは淡々とこう語った。


「インキュリア王国の『進化』はともかく、本校の生徒が秘密裏に精霊と契約できるとは思えん。少なからず、第三者の手引きがあったと見るべきだ」

「その第三者を、オゾアさんが知ってるってことですか?」

「この男は各地の紛争区域を出入りしている。必然、今の世界情勢についても詳しく知れる立場にあるということだ。そもそも、戦いの場がいつどこで発生するか知らねばならぬ故な」


 オゾアの理念が、死ねば怪我や病気から解放される、である以上。

 沢山の怪我人、病人が発生する場所に自分がいないと話は始まらず。

 少なくともオゾアは、自発的に傷つけ怪我人を作るほどには狂ってはいない。


「拙者が得た情報も一助にはなると思うが、チョコ殿がいない今となっては、オゾア殿こそが最大の情報源。故に彼と交渉し、こちらの手助けをするよう誘導する。それは、他でもないサレン殿にしかできぬことだ」

「オゾアさんに協力させて、ユダを捕まえる。それが、私が学士を獲得するのに役立つってこと?」

「クライドラ王国は精霊使いを容認しない。まして天体科の名門ともなれば、恐らくは世間に知られずに身柄を押さえたいはずだ。その者たちに引き渡すだけでも、相当な貸しを作ることができる」


 クライドラ王国は、精霊使いを容認しない。


 その当事者であるサレンはキュッと心臓の近くが痛んだが、今はシュラとの話を優先させた。


「なにより、序列持ちの精霊と契約を結ばせることが、仮に第三者の意思で行えると仮定すれば。その対象がたった二人だけで収まるとは到底思えない」

「…………じゃあ、他にもいるってこと?」

「推測に推測を重ねた話だがな。だが実際、このタイミングで怪しい動きをしている組織は多くある。それら全てが黒ならお手上げだが、どこか元凶か分かるだけでも大手柄になる」


 それが、学士授与のための功績。

  

 サレンと同じように序列持ちの精霊と契約した人間を探し出し、誰から受け取ったのか調査。

 そしてそれを手引きしているのが、一体どこの誰かを判明させる。


 仮にそんなことができれば、それは魔法学校の一生徒の領分を遥かに超えている。

 紛れもなく、疑う余地のない特大の功績だ。


「いくらクライドラ王国とて、そこまでされて無下にすることはあるまい。もはや魔法使いのすることかは疑問の余地が残るが、決して無理難題だとは拙者は思わん」


 サレンの目標は、魔法統括局に入ること。

 そのためには魔法学校本校で入手できる学士の地位が必要で、精霊科にいる以上は絶対に手に入らない。

 

 このまま普通に、何事もなく学校生活を送っても、きっと現状は変わらない。

 なにより、今のサレンにはもう、その道は残されていなかった。


「分かった。そういうことなら、やるだけやってみる」


 かくして、精霊科としての学科対抗戦はここで終わった。


 結果は三回戦前での不戦敗。

 人数不足による棄権であり、賞金も殆ど貰えなかった。


 不平不満が出かねない結果だったが、生憎とそうはならなかった。


(それにしても、チョコ先輩はどこに行ったんだろ…………?)


 チョコ・フォルワの失踪。

 それは大きなうねりを呼び、新たな騒動へと続いていくことを。


 少なくとも、この時のサレンは知る由もないのだった。

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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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