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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第3章 学科対抗戦

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36

 シルフィがサレンを凝視していたのは、別の思惑があった。


(あれが、サレンちゃんと同じ精霊科の人たち…………)


 精霊科の立場については、親しい先輩であるツグモから聞いている。


 極めて優秀な魔法使いである一方、属していた学科にはいられなくなった人たち。

 排斥するだけの理由があるが、排斥できないだけの才覚の持ち主。

 

 基本的には一学科につき一人が所属しているらしいが、植物科からの追放者は今この場にはいなかった。

 ツグモ曰く彼はいないほうが望ましいらしいが、詳しい理由まではシルフィに明かしてはくれなかった。


(…………先輩がそういうだけあって、全員が一流の魔法使い。しかも他の生徒と違って、教養ではなく実戦としての魔法を修めている)


 魔法が第一のクライドラ王国において、魔法とは教養の一つに位置づけられている。

 多種多様な習い事や、膨大な知識と同じ、持ち合わせることが嗜みであるとされているのが今日の魔法だ。

 

 故にこの魔法戦は、決闘というよりも競技としての側面が強い。

 その証拠に、勝敗の判定に支給された首飾りを用いているほどだ。


 魔法は戦うための道具ではなく、大人として知っておくべき見聞である以上。

 それを用いて積極的に戦う行為は、例えるなら携帯する武器を無闇に人目に晒す行為に近い。

 分かりやすく言うなら、下品でみっともないことなのだ。


(そして、それはこの人も同じ)


 ユダ・アルゲスタ。

 弟であるラシェトと違い、彼の表情には余裕があり、明確な仮面があった。

 それは警戒心といったものではなく、むしろそれを愉しんでる印象さえあった。


(…………この距離で魔力の流れを探知できないなんて。流石は第一席、と言うべきかしらね)


 第一席とは、この国における魔法使いの最高位『導師』に最も近い人間である。


 定義としては『導師』の直属の弟子であり、『導師』に代わって様々な役目を代行する立場にある。

 故に殆どの生徒は目撃することはあっても関わることはなく、同時に最も人目に晒される席次ともいえた。


「さて。そろそろ満足したかな?できることなら永遠と楽しんでいたいが、どうもそうはいかないようだからね」

「狙いは、サレンちゃんですか?」


 だからこそ、ユダがサレンに接触したことはシルフィの耳にも入っていた。

 そして今、二度目の邂逅を果たした意味もそこにあるとシルフィは確信していた。


 するとユダは、サレンの名を聞いて僅かに目元を細めるが。


「どうやら、先ほどの言葉は上手く伝わっていなかったようだ。僕としては、できるだけの誠意は尽くしたつもりだったのだけど」

「ホムラって人から、貴方が出てくることを聞いてました。そして、その目的についても」

「不思議な話をするね。初対面である僕の言葉は警戒するのに、同じ初対面の彼女の言葉は信じるのかい?」

「…………嘘をつく理由が、ホムラ様にはないだけです」


 他人を印象だけで判断するのはよくない。

 そう分かっていても、シルフィはどうしてもユダのことを心の底から拒絶したくて堪らないのだ。


 怖いものから距離を取るのと同じで。

 シルフィの心は、今この瞬間もユダとの関係を断ちたいと訴えている。


「そう、か。まさかそこまで君に嫌われるとは思ってなかったかな。こればかりは僕の落ち度としか言いようがないが、少しばかり残念に思うよ」


 ユダは小さく肩を竦めると、握っていた杖をくるりと回転させ。


「それじゃ、始めようか」


 瞬間的な魔力隆起による衝撃。

 それがシルフィの頬を叩くと同時に、シルフィは燃えるような緋色の魔力を体外へと放出する。


「『薔薇よ、咲け』」


 詠唱。


 たった二節のそれは、ユダの魔方陣が展開するよりも早く、一瞬にして舞台上を真紅に染め上げた。

 

「流石は薔薇の『原典』だ。これほどの規模の薔薇を一瞬で咲かせるとは、植物科の未来は安泰だと見える」


 しかし。

 とある一点、ユダが立つ周囲一メートルだけが、まるで見えない壁に遮られるように薔薇が咲いていなかった。


(結界魔法。いえ、この感じだと魔力で相殺した!?)


 魔法が現実となる、その刹那。

 シルフィの魔法の場合、魔力が地面を巡り、赤い薔薇を咲かせる、その一瞬。

 

 文字通りコンマ数秒に生じる過程に、ユダが魔力を捻じ込み中和してみせたのだ。


「だけど、広範囲に渡る面状攻撃には、必ず始点と端が生じる。君の魔法は確かに強力で無慈悲だけど、同時に花が咲くという事象に囚われすぎている」


 言うは易く行うは難し。

 理論上はできるかもしれないが、それをこの実戦でやってのけるのとは意味がまるで違う。

 

 少なくとも、シルフィの魔法発動を察知する魔力探知と、ピンポイントで魔力を放出する魔力操作の両方が必要になる。

 それを一瞬で、しかも初見でやってのけながら、シルフィに話しかけられるほどに余裕がある。


(やっぱり、この人とんでもなく強い)


 これが、全学科において最も『導師』に近い魔法使い。

 アルゲスタ家が誇る不世出の天才の称号は伊達ではなく、むしろ過小評価だとシルフィは素直に思った。


「ですが、手も足も出ないわけではありません」


 アルゲスタ家の魔法は、彗星だ。

 夜空から落ちてくるそれを模した魔法は、高い威力と自由自在な軌道、なにより抜群の魔力効率を備えた遠距離攻撃に適した代物である。


 だがそれは、あくまで本気の殺し合いをする場に限った話。

 こと学科対抗戦においては、その威力は却って行動を制限する枷になる。

 特に的である首飾りを狙うとなれば、自然と威力は抑える必要がある。


「本気の貴方であれば難しいかもしれませんが、こと怪我を負わせない程度に加減されたものであれば十分に拮抗できます。そして、私の魔法は永続的に大地を薔薇で埋め尽くす」


 薔薇魔法の一番の強みは、場所すら問わない繁殖力にある。

 やりかた次第では鋼鉄の上にすら咲かせられる魔法は、シルフィが解除しない限りは効力を維持し続ける。

 

 確かに第一波をユダに防がれたが、それが長時間続けば形勢はシルフィに傾く。

 元より高度な手法で防いでいる以上、ユダにとってもシルフィの薔薇は相応に厄介なはずなのだ。


 そして、全神経を防御に注げば、学科対抗戦のために加減しているユダの魔法は防ぐことができる。

 幸いにも魔力探知には引っかかるため、誤って見落とすことも起こりえない。


(保有魔力では向こうが上ですが、魔力効率では私が上。このまま長引かせ、時間を使わせれば勝機は見えてくる)


 ユダの衣服には高度な防御魔法が仕込んでいるだろう。

 だがそれも、薔薇の繁殖と時間があれば突破することはできる。

 

 まして満開の薔薇の花園は、踏み込めばたちまち肉体を埋め尽くす。

 地の利を得た今、注意を切らさなければシルフィに負けはあり得ない。


「…………そうですか」


 魔法戦は、先手を取ったほうが遥かに有利だ。

 なにしろ魔法を使うのには時間を有するうえ、相手の魔法によって自らの魔法に悪影響を及ぼす可能性だってある。


 だから、この状況は第一席たるユダにとっても不利なはずなのだ。


「やはり君には、まだ早すぎる」


 彼が、伝統と継承によって成り立つ魔法使いならば。


「───────ぇ?」

「首飾りの破損により、魔法戦の継続は困難。よって第一戦は、天体科第一席たる僕の勝利になります」


 何が、起きた?


 脳裏が疑問符で埋め尽くされ、シルフィはそう宣告されたあとも動けずにいる。

 そんな彼女を放置するように、ユダは何事もなかったように歩き出す。


「もし、何が起きたのか知りたいのでしたら。その時はいつでもお尋ねください」


 その去り際、聞こえるかギリギリの距離でユダはこう言い残した。


「君には、その資格があるようですので」


 その瞳に帯びる、光芒に似た光を揺らしながら。

 

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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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