21. 30日後_領地へ戻ろう!
あの後、どうなったかというと、王宮内の池は全く深くはないので、溺れる事はないのだが、水しぶきと共に、音を派手に立ててしまい、警備隊に引き上げてもらっている間、ずっと注目の的だった。そして、部長にめちゃくちゃ怒られた。
当たり前だ。もともと、私のせいでケチがついてしまったお茶会だったにも関わらず、さらに、もう一度私は、騒ぎを起こして、台無しにしてしまったのだから。
不可抗力とはいえ、頑張ってきた部長にも同僚にも申し訳ない。そして、何より主役である殿下に申し訳ない。「まさか、池に落ちるとは思わなかった」と、部長も説教の最後、笑ってたけど。
そして、進めていたお見合いは破談になった。
どうも宰相家は、あの商家では一番のお得意様だったらしい。そりゃあ、破談になるわな。叔母は、「あの家は、あんなに乗り気だったのに!」と言って、怒っていたり、悔しんでいたりしたが、私は、ほっとした気がした。
日に日に噂が噂を呼び、「二人のご令嬢が取り合う魔性の文官」だとか「殿下のお妃候補達をかどわかす女狐」だとか、色々とあの話に、尾ひれも背びれも付いてしまった。ビビアーナ嬢は自業自得だから良いとして、ジュディには申し訳ない事をした。ジュディはジュディで、「お姉さまにご迷惑をかけて、ごめんなさい。」とシュンとしながら、謝われてしまったので、よけいだ。彼女こそ年ごろの女性で、外聞がとても大切な時期だと言うのに。
そんなわけで、私は今、毎日仕事がしづらい環境に置かれていた。第三部の部長や同僚達は、今までと変わらぬ対応だったが、逆に気遣わせているのだとも感じられる。その内ネタになるから頑張れと言ってくれたが、とても申し訳なく思う。
今は、仕事で頑張るしかない。
仕事で見せていくしかない!
そう思っていた矢先、実家から電報が届いた。
父が倒れた。
うちは、母がいない。
私が文官になった頃、流行病で無くなってしまった。従姉のリディアと同じ病だった。
中央の文官だった父と殿下の乳母をしていた母は、お互いに忙しかったので、余生は領地でのんびりしようと話していた矢先の事だったらしい。その後、父は、中央の官職を辞め、後妻を迎い入れることもなく、領地で母の思い出と共におだやかに生活していた。
今、兄はこの国にいない。陛下の名代として新大陸の新たな植民地の開国記念式に出席するの為、警護官の一人として、オージアス殿下に随行している。あと数か月は帰ってこないだろう。兄嫁は、今月臨月の為、移動は無理。生まれたら、生まれたで、やはり移動は、しばらく無理だろう。
執事や家令もいて、その他使用人も居るから、父の介護自体は問題ないが、一度私が家に帰るべきだろう。父の容態も実際確認したい。
その後、執事に確認を取ったところ、命に別状はないが、直ぐに執務ができる程、体調は芳しくないらしい。
家の財政状況はわからないし、領地経営もした事がないが、私が最初に配属されたのは財務部だったし、今や中堅の文官だ。何とかなるだろう。少なくとも兄が帰ってくるまでの“繋ぎ”には、なるはずだ。
実家の状況を部長に話し、しばらくの間、休職扱いにしてもらう事にした。
◇
家に帰ってみると、執事のマシューを始め、使用人たちは喜んで、私を出迎えてくれた。
父は、確かに命に別状はないようだったが、ベッドから起き上がる事が出来ずにいる。医者の話では、しばらくは、車いす生活を強いられるが、いずれは、杖を使ってなら歩ける位まで回復し、寝たきりにはならないとの事だったが、現状、これでは、しばらく執務は無理だろう。
久しぶりに入った父の執務室。彼の性格が表れているのか、部屋は整理整頓されており、必要な書類もきちんと分類されていたので、調べるのにわかりやすく、助かった。
父の性格は、財政状況にも表れていた。大貴族のように潤沢ではないが、爵位相当の領地にしては豊かで、とても収益率は高く、健全な財政状況だった。
これなら、兄への引継ぎもすんなりいくだろう。
※水深が浅くとも、鼻と口がふさがるだけの水嵩があれば、人は溺れられるそうです。
皆様ご注意を!




