22. 120日後_領主代理になろう!
領地経営は、なんとかうまく回っている。
丁度、徴税の時期で、父からの引継ぎもないままだった為、勝手がつかめず、なかなか寝る時間を確保するのが大変な位忙しかったが、長く仕えているマシューの助けも借り、何とか国に税金を納める事ができた。
父が倒れてから2か月半後、殿下の外遊から兄が帰国し、そのまま領地に飛んで帰ってきた。義姉の方は良いのかと聞いたら、顔はちゃんと見てきたし、実家に帰ってのんびり子育てしているから大丈夫なのだそうだ。
それに、「嫡男なのだから、しっかり行ってこい!」と義姉に送り出されたらしい。なんとも頼もしい義姉だ。最初会った時は、ふわふわっとした大人しい女性かと思っていたが、子供が出来たら変わったのだろうか。
それから、私は、半月かけて、数か月間、領主の代理として担ってきた仕事の引継ぎが終わった頃、父は、兄に正式に家督を譲った。
これで私の役目は終わりだ。
そろそろ王都に戻ろう。
王都を出てから、既に3か月が経ち、面倒な噂もとっくに引いているかもしれない、と楽観する気持ち半分。そもそも、戻っても私の席はまだあるのかと、不安な気持ちが半分。ただ、なんだかんだで大ごとになってしまったのだ。責任のある大きな仕事は、もう回っては来ないだろう。
と思っている所に、兄から領主代理を、正式に頼まれた。
どうやら、王都で出世してしまい、領地と王都の二束はきついらしい。しばらく考えたいと時間を貰っているうちに、領地内で大規模な洪水が起き、その対応に追われていたら、ずるずると領地に留まってしまった。気がつけば、私は、領地経営に遣り甲斐を見出していた。
それはそうだ、末端の文官である私は、大体上にお伺いを立てて仕事をしていたが、ここでは、父や兄に相談するとはいえ、領地経営という大きな仕事を回しているのだ。楽しい以外の何物でもない!
翌週、兄の提案を受けることに決め、部長宛てに辞表を提出した。この前のお見合いで、文官を辞める葛藤に比べたら、ずいぶんあっさりと辞表を提出出来た自分に驚く。
はたして、私は、結婚したくなかったのか、はたまた相手の問題か、
時期の問題か、それとも…。たぶん、全部だろう。いわゆる、巡り合わせがしっかりはまったから、すんなり文官を辞める決心が、今回はついたのだろうと思う。
その後、叔母は、領地が落ち着いた頃を見計らって、お見合いの話を、何回か持ってきていた。最初は断っていたが、さすがに毎回断るのも、申し訳なく、もう一度受けてみる事にしたのだが、
やはり、私は、叔母からえぐられている。
「やはり、女性の幸せは結婚ですわよね。」
「そうですとも!ですからね。いつまでも領主の真似事をしているこの子が心配で。私も可愛い姪っ子には、是非幸せを掴んでほしいと思いまして、この場をセッティングさせていただきましたのよ!やはり、女に生まれてきたからには、旦那様と子供に囲まれた生活を送るという幸せが、必要でしょう!」
「まあ、ファーナム夫人たら、なんと姪っ子思いなのでしょう!」
「ほほほほほ。」
いや、真似事ではなく、兄から指名され、陛下から任命された“ちゃんとした”領主代理なのだが...。
しかし、叔母は良くこんな私に縁談相手を見つけてくるものだ。元文官の年増の領主代理だ。世間一般の嫁にしたい要素なんぞ皆無である。しかも、うっかり王都では噂を作ってしまい、且つ領主ではない。あくまでも代理で、家付きでないのだ。
彼女は彼女なりに、私の事を思って、一生懸命探してきてくれているに間違いない。その証拠に後妻の話ではなく、いつも初婚の男性を見つけてくる。
「うちの子は、とても大人しい子なので、こんなしっかりとした女性に任せた方が良いと思いまして。」
と息子の話に移った所で、私の注意は、今回のもう一人の主役である男性に向かう。
確かに大人しそうだ。
さっきから、母親しかしゃべっていない。
料理や叔母の方ばかり見て、私の方を、ほぼ見ることはない。
見たとしても、チラ、チラと見るばかりだ。
大丈夫だろうか。
今まで、良くも悪くも、しっかりと自信を持った男達を見ているせいか、なんとも頼りなく映ってしまうが、きっとアレらが特殊なのだろう。
私もしゃべっていないのだから、お相子といえば、お相子なのだが、こういう場では、お見合い当人の女性は、しゃべらず恥ずかしそうにするのが、鉄則...なはず。
しかし、先ほどまで、ホホホホホ。としゃべっていた彼の母親と我が叔母はおらず、「後はお若いお二人で!」としばしのフリータイムを貰った今、先ほどと同様、彼は、チラチラと私を見るばかりで、話が進まらないどころか、始まりもしないのだが、良いのだろうか。ここは、男性がリードして話かけてくる場面では?
わ、私から話かけてしまって良いのだろうか...。
よ、よし。
「お、お仕事は、家のご商売をお手伝いしていると伺ったのですが。」
「少しですが、手伝ってます...。」
「そうですか。どのような。」
「全然、大したことしてないですよ。」
「そうですか。」
「...。」
「最近、何が一番やりがいがある仕事は、何でしたでしょうか。」
「特には。」
「そうですか。」
「...。」
盛り上がらない...。
これは、私の質問が悪いのだろうか。
そういえば、仕事の話しか聞いてないしな。
「アルジー様のご趣味は?」
「特には。」
駄目だ...。
何にも興味を示してくれない。
おかしいな、仕事でももう少し、話が盛り上がるんだけど...。
「あなたは、なぜこのお見合いの話を、受けたのですか?」
「え?」
「男爵家の三男なんて、何の旨味もないでしょう?
そ、それとも何ですか?あなたは、中央の仕事もあり、領主代理の肩書も持っているから、私の仕事など、なんだって構わない事ですか!見下しているんですか!?」
え?
なぜそうなる?
何言っているのか全然わからない。
何か失言でもしたかしら、私?
いやいや、見下していると感じられる程、話していないぞ。
いや、目線か!私の目線がいけないのか?
「アルジー様、申し訳ございません。わたくし何か、アルジー様の気に障る事を言ってしまったでしょうか。」
「す、すみません。
取り乱しました。」
「いえ。もし宜しければ、何か、わたくしに、アルジー様のお好きな事を教えてくれませんか?」
「...。あの、私は、植物観察が好きで...。面白くともなんともないでしょ?」
「まあ!植物ですか?素敵ですね。何の植物かしら?」
「花も好きなのですが、最近は、ドラセラっていう観葉植物に夢中でして!近年、別の大陸から持ち込まれた植物で!」
と、何かのスイッチを、私はうっかり押してしまったらしく、そこからノンストップで30分以上話が続いた所で、叔母たちが戻ってきて解散になった。
その間、彼は、一度も私に対し、質問をしてこなかった。きっと彼は私に興味がなかったに違いない。ある意味、仕事よりも疲れたお見合いだった。
と思っていたら、後日、このまま話を進めたいと先方から連絡があった。
何でも、今まで彼の話に付き合ってくれた女性はおらず、途中で遮る事なく、ずっとにこやかに彼の話を聞いていた私は、彼のお眼鏡にかなったらしい。文官の時に培われた適度に相槌をうちながら、おじさま達相手に気持ちよく話させるという特殊スキルを、どうやら私は、気づかないうちに、発動してしまっていたらしい。
職業病とは恐ろしいものだ。
叔母は喜んでいたが、私は、とても喜べなかった。
会話も碌に出来ず、突然激高する。
そして、
たぶん、私に対して社会的地位のコンプレックスも感じている...。
ちなみに、前回破談になってしまった商家の次男は、確かに独身だったが、実は既に愛人を囲っており、既に子供も二人いたとか...。
後でこの事を知った叔母は、とても憤慨し、「そんな男にカワイイ姪っ子をやるわけにはいかない!むしろ、破談になって良かったわ!」と言い、「今回の人は、とても外で浮気をしなさそうな誠実な方よ」とは言っていたが、
例え、外に女性を囲っていなくとも、これはいかがなものだろうか...。
駄目だ。幸せな夫婦生活のイメージが、全く思い浮かばない。
うん。叔母には悪いが、この話はお断りしよう。
きっと、“姪っ子の幸せ”を思えば、わかってもらえるはずだ。




