光
あの日、結婚式の花嫁衣装を着せられた後も窓辺に立って下を見ていた。
『レッド様』は、この時間…通るわけないのに、ずっと続く日常のように…窓の下を見ていた。
このまま死んでしまおうか…。
生まれて初めて『すがる想い』…の意味を知った…ような気がした。
式の始まりの鐘を背に、迎えに来たお母様と神官達に引き連れられて、温かくて穏やかな少女の部屋を後にした。
結局、『レッド様』は見れなかった。
…もう、こんな想いも持ってはいけないんだ。
涙が溢れる…。
私は、花嫁衣装を着た死刑囚。
ほら、足元も目の前も…真っ暗闇。
(死にたい…)
聖堂前に引き出されて、見上げる青空が目に痛い。これから先の未来を考えたら、今から私のお葬式が始まる…。
(嫌だ。嫌だ。逃げたい…)
私の気持ちとは裏腹に聖堂の扉が開き、知らない男性に付き添われて歩き出す。
…誰?この人は…?
私の未来を思えば…誰だろうと、もう…大したことないことか…。
薄暗い聖堂の床や壁に、ステンドグラスの色とりどりの光がユラユラと影絵を描いている。
歩き出した私の目が…とらえた。
一組の騎士団の制服を…今日、見たかった人達の制服を見つけた。
そして多分…、
私が想像している『レッド様』と目があった。
この時の、このときめきだけで…この先の人生の全てを生きていける。
…気がした。
…けど、無理だった。
体調が悪いと言って出席しなかった宴。
夜遅くなって、私の部屋にルドルフ様が怒鳴り込んで来た。
酔っている。
彼は「何かがない」と怒鳴り散らしている。
挙句に、私を問い詰め私が答えに困ると、部屋のあちこちを漁り始めた。
お父様が作ってくださった、私のお気に入りの部屋を。
家具が泣いてる。
お父様の思い出が壊れてしまう。
「やめて!」
叫んで、ルドルフ様の体にしがみついて止めようとした。だけど、簡単に払われると、私の方を見て舌打ちまでしてきた。
お父様の思い出が壊れてしまう。
心の中の私が、ものすごい叫び声をあげる。
と、同時に外が一度、昼より明るくなると地響きのような衝撃音が床を揺らし、窓ガラスを激しく揺らした。
音…?音が…。
城に、上の階…3階に雷…?
一度や二度じゃない、あちこちからの音と衝撃と煙の匂い。
一瞬、ルドルフ様は手を止めた。だけど、本当に一瞬だった。また野盗のごとく、クローゼットやサイドテーブルの引き出しごと引っ張り出したり、足りずにテーブルをひっくり返したり、ソファやクッションを引き裂き何かを探している。
…狂者には強行で。
尻もちついてる場合じゃない。
花瓶を後頭部に叩きつけた。
鈍い音と両手に鈍い痛みが広がった。
しばらくの間、悪魔のようなルドルフ様は、頭を抱えて転がっていた。とどめを刺すべきなのに私の体が動かない。
ノロノロと立ち上がった悪魔のような男が、私の首に手をかけてきて…。
(お父様、ごめんなさい。今からそちらに参ります)
悪魔に首を絞められ、頭がキンキンする痛みで脳が朦朧としかけていた。
その時に、勢いドアが蹴破られた。
天使か神がドアを蹴破って助けに来てくれた…妄想だと思った。
私、死んじゃった。…って。
でも、助けに来てくれた人(多分、騎士)達がやたら生々しい…いや、生き生きしている…?
それに、エミィも…?
理由が分からないままに部屋から連れ出され、玄関扉の前で見上げた命の恩人の顔は…。
「レッド様…」
私、生きている。




