光
階段を降りかけると、屋敷のどこからか、鈍く大きな…雷が落ちたような音が響いてきた。
熱く、黒い煙が鼻の奥を刺激してくくる。
「急ぎましょう。崩れます」
頷いたアリステア嬢だったけど、躊躇するように周りを見回している。自分の家が焼け落ちようとしている…混乱するのは当たり前と思う。
それとも…新婚の夫を心配しているのか…。
「お嬢様、行きますよ」
侍女がアリステア嬢の手を引き走り出した。
普段から、仕事の出来る侍女かも知れない…。
緊張と恐怖しかない迷路を走り抜けて、煙からの猛追を交わし、俺達は玄関扉から思い切り吐き出された。
座りこむアリステア嬢と、寄り添う侍女。
団長は俺達を見つけると走って来て、嬉しそうに声をかけてきた。
「レッド。無事だったか?心配していたんだぞ。良かった、良かった」
「団長、無事にアリステア嬢を保護できました」
アリステア嬢を見ながら団長も嬉しそうに頷いた。アリステア嬢は俯いていたけれど、ゆっくりと顔をあげて俺を見る。
「レッド様…」
屋敷が燃える炎がユラユラ輝く瞳と、高揚した頬を縁取るウェーブのブロンド。
アリステア嬢の意図は分からないが、名前を呼ばれて嬉しくないわけがない。
…頬が赤くなる。
少年のように照れてしまう。
周りをうかがってしまった。
…が、ここは夜の火事現場、おまけに走って来た後だ。顔が赤かくても体が熱くても誰も不思議に思わない。
ここにいる人間は、大体そんな感じだ。
それよりも…大事な事がある。
「団長、お話しがあります。あちらに…カナン後を頼む」
カナンが頷く。
「んっ?わかった」
何かを察したらしく団長からは笑顔が消え、2人で歩きかけた時に…。
「待って、待って下さい。レッド様、私を連れて逃げて下さい」
思わず、振り返る。
アリステア嬢の瞳に溢れた涙が、炎でキラキラと光っていた。
凄まじい熱と音とともに、3階部分が焼け落ちた。
ルドルフ殿下は無事だろうか?




