光
蹴破られた扉が大きく開くと、目の前にはカーテンの引かれていない大きな窓があった。
窓ガラスは、ガラスのあちら側の夜の世界へと引き込むように黒く光り、月の輝く空を灰色の煙が龍のように泳いでいた。
窓ガラスのこちら側に映るのは、仄かに揺れるシャンデリアの灯りと俺と仲間の姿。
夢を映しているような窓ガラスは、続きを映す。
俺の後ろから、部屋に飛び込んで来た侍女は首が千切れそうなほどにキョロキョロしている。
「アリステア様!」
何かを見つけて、叫び走り出した侍女。
追う俺達。
立ち止まった侍女の前にいたのは、壁の前に立つ2人だった。
後ろ姿から1人はルドルフ殿下、壁側のもう1人は女性で、顔は見えないが侍女の様子からアリステア嬢と思われた。
揺れるシャンデリアの灯りの下で、ルドルフ殿下は、アリステア嬢の首を絞めていた。
「殿下、何をなさっているのですか!」
俺の声が大きくなった。
アリステア嬢の恐怖で歪んだ顔の、泣きそうな瞳がわかる。
後ろを振り返ったルドルフ殿下は、首を絞めたまま勝利宣言する武将のように言った。
「あぁ、ちょうどいい所に来たな。この女は私に逆らい、この私を傷つけようとしたのだ。だからこうやって罰を加えているのだ」
そう言うと、絞める手に力を加えたのだろう、アリステア嬢がうめき声をあげて仰け反った。
「おやめください」
俺の声が号令で、仲間の1人のカナンがルドルフ殿下を羽交い締めにした。
「何をする、おまえ達。命令違反だぞ」
怒鳴るルドルフ殿下。
俺はゆっくり、殿下と崩れ落ちて跪いているアリステア嬢の間に入った。
「何があったかは存じません。ですが、これが王族のとる行動でしょうか?若くか弱い女性に対し…いえ、今日、挙式を挙げたばかりの新妻に対して行う行動でしょうか?それに、今すぐに逃げなければ、ここも燃え落ちます」
侍女がアリステア嬢の背中をさすりながら、心配そうにルドルフ殿下を見上げている。
雷のような、大きな鈍い音がした。高層階の何が燃え落ちたのだろう。きな臭かった匂いが、はっきりとした焼け焦げる匂いに変わってきている。
間が…あった。
ルドルフ殿下が薄笑いを浮かべた。
「いいだろう。下でその女を捕まえておけ。後で行く」
そう言った後、ルドルフ殿下は野盗のように、部屋の隅々までも家探しを始めた。
清楚で可愛いらしいライティングビューローも、花の飾りがついた小さなタンスも、床に引き出しを投げ出してまでだ。
見ていて…滑稽だった。
…が、構ってはいられない。
「2人共、火がまわらない内に逃げます。走りますよ」
「はい。ちょっと待って下さい」
と、アリステア嬢はベッドの上からウサギのぬいぐるみを持ち、先に走り出したカナン達の後を追った。
最後を走る俺は、女性2人が遅れて走れないようなら抱えるつもりでいたが、杞憂で終わった。
2人ともに足が早かった。
俺達が階段を降り始めると、アリステア嬢の部屋があった2階の廊下は煙で見えなくなってきて、もう少し遅ければ逃げれたか怪しい状況だっただろう。




