光
闇をきり裂く獣達の咆哮。
当てなく飛び交う鳥のはばたきを森に置いて、急ぐレッドの前に、月さえ照らし出すほどの火炎を吐く城が、夜空に浮かび上がってきた。
駆けつけた城の門前には、レッドが出かけた時のままに美しい庭園が広がっていた。
違ったのは、使用人達があちこちに城を遠巻きに立っている。
皆、着の身着のままの姿をしていた。立ち尽くす料理長や座りこむ侍女。ただ呆然と無ずすべなく、夜空を、舐めつくすような煙を吐く城を見上げていた。
「レッド、どうする?」
追いついて来た仲間に聞かれて、とにかく、この庭のどこかに逃げているはずのアリステア様を捜さなければと思いながら、そのことは…言葉を飲んだ。
「情報収拾が先だ。団長を捜そう」
レッドは、馬から下りると走り出した。
人の群れの中を顔を確認しながら、広い庭内の中を、ただ1人の姿を捜して回った。
…ただ1人。
聖堂の中をステンドグラスの光が揺れる中を、俯き諦めたような表情で自分の前を通り過ぎて行った他人の花嫁…。
焦燥感と落ちてくる火の粉で、目の前が赤い。
自分という人間がもどかしい。
城の正面玄関が近くなってくると、玄関扉の前で何人かが騒いでいるのが目に入った。
近づくと、騎士団長と侍女と数人の男達が言い合いをしている。
「団長、何かあったのですか?」
団長が答える前に、侍女がレッドに助けを求めるように訴えてきた。
「騎士様、アリステア様がまだお部屋にいます。助けて下さい、お願いします」
(アリステア様が…まだ?)
考える前に、体が勝手に動く。
体当たりで扉を開けると城内は暗く、熱い空気が外に流れてくる。
(どこに行けば…)
「私も行きます。お部屋にご案内します」
侍女の言葉に頷いた。
さっきまで泣きそうだったのに、姫を護る守護神のような侍女が先に走り出す。
「待て、レッド!危ないぞ」
「団長は、ここでお待ち下さい」
走り出した俺達の後を、さっきまで一緒だった仲間達が追って来る。
「おまえ達、危ないぞ。戻れ」
「レッドが行くとこなら、どこでも行くさ」
侍女はきな臭い匂いが立ち込める廊下を走り抜けて階段を上がり、ひとつの扉の前で止まった。
「ここです。お嬢様はここにいます」
危機迫る侍女の様子を見ながらも、レッドに冷静さが戻ってきた。
「どうして、ここにいると?確実なのか?」
そう、もうアリステア様は逃げて外に出ているかも知れない。
自分達は、侍女に騙されているかも知れない。
侍女の顔は…。
「確実です。お嬢様は式の後に体調を崩されて休んでいましたし、それに、さっきまで窓から姿が見えていたんです…旦那様と…」
真剣な瞳は、そう言うと俯いてしまった。
「ルドルフ殿下と…?」
レッドはドアノブを回したが、鍵がかかっていて開かない。何度も名前を呼びながら扉を叩くと、中から音がした。重い物が落ちたような鈍い音。
レッドは条件反射的に、扉の横にあった花瓶が載ったテーブルを持ち上げ、扉に何度もぶつけて蹴破り部屋に飛び込んだ。




