光
「火事だ…燃えているぞ」
「城から煙だ!」
皆、慌てて口々に叫んでいるが、誰も動けずにいた。「森を守れ」の命令が出ている以上、勝手には動けない。
レッドは、隊員達の戸惑いが手にとるように分かった。火事は気になる。だけど、勝手に動けば命令違反になる。
どうすればいい?…皆、お互いの顔を見ているだけで金縛り状態だった。
今、ここには命令を出す上官はいない。一応、今はレッドがリーダー的な役回りになっている。
それならば…、だ。ひときわ大きな声でレッドが叫んだ。
「城に戻るぞ!」
「レッド…」
「おっ!おぉー。行くぞ」
命令が出たんだ。急げ!と皆、我先に走り出した。
馬を駆り、先頭を走るのはレッド。
城へ続く道、導くのは月灯りだけ。
思う事はひとつだけだった。
(アリステア様、どうぞご無事で…)
第三騎士団がルドルフ殿下に付き添い、エルヴェリア国に来てから1週間になる。
だが、騎士達はまだ誰もアリステアを間近には見ていなかった。
ルミエール国にいた頃の噂でアリステアは、湖に住む『声を失った人魚姫』に例えられていて、レッドは、無口で水泳が得意なお嬢様くらいの認識でいた。
騎士団の仲間達も、似たような想像力だったから自然に話が盛り上る。輪を掛けて、市中に出回っていたアリステアの肖像画達が、それぞれが微妙に似ていなかったので余計に『本物を見たい』と、欲求不満の塊になってしまっていた。
エルヴェリア国にいる今は、休憩時間にルミエールの騎士達や使用人からの情報を自分達なりに想像して…妄想して楽しむ娯楽。
…その程度だった。
そのレッド達が、アリステアを間近で見たのは、今日の朝の挙式の時が初めてだった。
ルミエール第三騎士団は、挙式の警備の人手が足りずに、聖堂内の扉の近くで警備をする事になっていた。
青空の下の聖堂は大きく威厳に満ち、長い年月の格式と信仰で、祈りの声が聞こえそうな気がするほどだった。(疲れているから幻聴かも)天井と正面の壁には宗教画が描かれている(遠すぎて何の絵なのかは分からない)
もっともレッドは、美術品のたぐいに興味がないから、綺麗な壁の模様なんだ。で終わっていた。
美しいステンドグラスから射し込む色とりどりの朝陽が大理石の床でユラユラ揺れていて、まるで水底に射す陽炎(見たことはない)のようだと…不思議な感覚になった。
パイプオルガンの知らない曲が流れ始め、いよいよ挙式の時間がせまってきた。エルヴェリア国のスタッフや親族達が緊張している中、ルミエールの騎士団達の『招待客より先に花嫁が見れる』の、ヒソヒソと内緒話を後ろに聞きながら、レッドも内心は期待が高まってきていた。




