第八話 鈴蘭の邂逅
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第八話 投稿しました。
静かな緊張感に包まれていた鈴蘭宮の前に、突如として怒声と喧騒が響き渡った。
「待て貴様ら、ここがどこだか分かっているのか!! さっさと帰れ!!」
「止まれと言っている!!」
鈴蘭宮の警護を担当する王国騎士団の怒声が、回廊に鋭くこだまする。
しかし、その威圧的な言葉を向けられた老齢の男女――公爵家の執事長と侍女長は、微塵も動じなかった。
「ここがどこか分かっているか、とのことですが……ここは我らがイウローネお嬢様がおられる鈴蘭宮でございます。我らは公爵家から派遣された、家庭教師でございますよ」
「このように、国王御璽印章付きの任用雇用証明書がここにございます」
穏やかな笑みを浮かべつつ、しかし絶対に引かない爺や達の態度に、騎士団の男は顔を真っ赤にして詰め寄った。
「なんだと、その証明書を渡せ!」
「それは無理でございます。これは直接お嬢様から、国王陛下に渡していただくことになっておりますゆえ」
「それを持って確認するんだ! 口頭だけで信じられるわけがないだろう!!」
一触即発の緊迫した空気の中、頑なに通そうとしない騎士団と、あくまで優雅に書類を見せない爺や達がにらみ合う。
その時だった。
「このような場所で、一体何を騒いでおられるのですか? 貴方たちは――」
ピシャリとした冷徹な声と共に、その場に歩み寄ってきた二人の人物がいた。
「おや。……これは、お久しぶりでございます。どうしてこちらへ?」
声をかけたのは、白銀の法服をまとった高位聖職者――枢機卿であった。
思いがけない人物の登場に、王国騎士団の面々はハッと息を呑み、慌てて敬礼の姿勢をとる。
「枢機卿様……! よ、よろしかったのですか。こちらの者たちをご存知で……?」
「ご存知も何も……私や、国王陛下、そしてイウローネ様の『恩師』にあたられる方々ですよ」
枢機卿は信じられないものを見るような目で騎士団をひと睨みし、ハッキリと言い放った。
「その方々を門前払いにし、あまつさえ制止するなど……王室への最大級の不敬に当たりますが、分かっているのですか?」
「っ……! しかしながら、私どもも騎士団長より『いかなる者も通すな』と厳命されております。ですので、いくら口頭であっても、確かな証明なしに通すわけにはまいりません……!」
冷や汗を流しながら必死に言い訳をする騎士団に、執事長はふっと小さく笑うと、懐からスッと一枚の用紙を取り出した。
「では、証明書があれば良いのでしょう? 私たちと同じ、国王御璽印章付きの証明書をここにお持ちしておりますよ。……これでも、証明にはなりませんか?」
突きつけられた本物の証明書を見て、騎士団の男はもはや青ざめるしかなかった。
「っ……! では、一度上官に確認してまいりますので、少々このままお待ちください!」
騎士団の一人が冷や汗を拭いながら、確認のためと走り去ろうとしたその背中に、侍女長が優雅に声をかけた。
「お気をつけて。ですが、あまりお待たせしないでくださいましね?」
青息吐息で去っていく騎士団を見送ったあと、執事長と侍女長は、目の前に立つかつての教え子へと向き直った。
「……お久しぶりでございます、枢機卿様。すっかり立派になられて……今は枢機卿の位につかれているのですね。おめでとうございます」
「まあ、ほんとにご立派になられて。枢機卿なんて……今回は助かりましたわ。ところで、そちらのお嬢さんは……?」
執事長の言葉に、枢機卿は傍らに控えていた若い女性をそっと促した。
「こちらは、教会が遣わした聖女の教育係です。イウローネ様の先生の娘になられる方で……あの方の意志を継ぎ、新たな『賢者』となられた方です」
「――賢者さまでしたか。失礼いたしました」
一礼する爺や達に、賢者の女性も静かに会釈を返す。
そうこうしているうちに、先ほど確認に走っていた騎士団員が血相を変えて戻ってきた。
「お、お待たせいたしました! ……皆様、お通りください!」
ようやく門が開かれ、通行の許可がおりたのを確認すると、侍女長はふふっと不敵な笑みを浮かべ、去り際に騎士団へと声をかけた。
「ようやく許可がおりたようね。……一つ、あなたたちに忠告してあげましょ。もし私たちが、本当にニセモノの国王御璽印章を持っていたとしたら――ここでただ待たせていたのは、大間違いよ。問答無用で制圧をしなさい。直ちに応援を呼んで、その場で捕縛をしないといけませんよ?」
笑顔のまま、サラッととんでもなく恐ろしい「実戦の指導」を言い放つ侍女長。
それに続くように、執事長もやれやれと首を振ってみせる。
「まったく、若い者たちをそんな風にいじめてはいけませんよ。彼らはこれでも職務に忠実だったのですから……まあ、私たちを疑ってもっと遅ければ、今頃あなたたちはどうなっていたか分かりませんがね」
同じく、恐ろしいことをサラッと言ってのける執事長。
青ざめて硬直する騎士団を他所に、一行は優雅に歩き出した。
「まあ、無事に入れたのですからよしとしましょう。……さあ、皆様。お部屋に向かいましょうか」
また新たな人が出てきてしまいました。
主人公はいつになるんだろう




