第三十四話 賢者の見えないお守り、覚悟と決意
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第34話投稿しました
ベゼラの部屋を後にした賢者が次に向かったのは、ヴェルナードとイウローネが待つ一室だった。扉を開けると、賢者は二人に穏やかに声をかける。
「イウローネ、ヴェルナード、話は済んだようだね」
「はい。特に何かが決まったわけではないですが、皆、無事に戻ってきましたのでどうとでもなりますから」
「どうとでもとは、ならんのだがなあ……」
あっけらかんと答えるイウローネにヴェルナードが溜め息をつくと、イウローネはフッと表情を和らげて夫を見つめた。
「あら……妻や子供のことなんですよ? ヴェル様がされませんと、誰がするんですか?」
「流石はお嬢様。見事でございます。ヴェルナード様は、もう一度教育し直されますかな?」
控えていた執事長の容赦ない突っ込みに、ヴェルナードはたじろぐ。
「イウローネが豪胆すぎ……」
「何か言いまして?」
「……何にもない……任せろ」
「嬉しい言葉です。期待してますわね。ヴェ・ル・さ・ま」
「フフフ……相変わらず仲睦まじいね。一つ報告だよ。さっき子供たちにプレゼントを渡しておいた。お守りだよ」
「ありがとうございます、賢者様」
「しかし、それは見つかるのでは?」
疑問を呈するヴェルナードに、賢者は悪戯っぽく微笑んだ。
「ヴェルナード、それは子供たちに会えば答えが出るよ。さあ、行こうか」
賢者に促されて子供たちの部屋を訪れると、扉が開いた瞬間に弾んだ声が響き渡った。
「お父様! お母様!」
「お父様〜!」
「皆元気で何よりじゃ」
駆け寄ってくる子供たちを愛おしそうに抱き留めると、マクシミリアンが胸元をさしながら誇らしげに口を開いた。
「父上、さっき賢者様からプレゼントをもらいました。全員もらっています」
「ミリアン。それは先ほど賢者様から聞いたよ。で、それはどこに? 皆、同じ物だという事だが……」
首をかしげるヴェルナードに、マクシミリアンが不思議そうに尋ねる。
「父上には見えませんか。イウローネ様は見えますか?」
「それは、首元ですね」
「見えるのですか!?」
驚くマクシミリアンに、イウローネは静かに首を横に振った。
「いえ、私にも見えません。ですが、賢者様の魔力をかすかに感じます。何かあるとしかわかりませんが」
「流石はイウローネ。でも、一つ訂正だね。私の魔力を感知出来るのは、聖女としての力だよ。魔力を正しく見ることが出来る聖女の力の一つだよ。まあ、確かに私の魔力をわからないってなると弟子失格だけどね」
「ちゃんと弟子を名乗れて良かったです。それにしても、これほどの物を全員にですか……ありがとうございます」
「とりあえずのしのぎにはなるはずだよ。もう少し時間が経てば私の魔力も同調して、つけてる本人さえ自覚出来なくなるから。そうすれば見つからないね。魔力探査しても見えないよ。身体の一部のようなものだからね」
事もなげに語る賢者に、ヴェルナードは感嘆の息を漏らす。
「なんと、その様な術式……儂にはどれほど凄いものなのか想像もつかんが、イウローネ、理解出来るか?」
「理解は……出来ます……一つずつの術式は私でも再現できますが、一つにすることが出来ません……」
「イウローネ。なら、練習しようか。シャルロッテと一緒に練習すれば済むよ。どうする?」
「わかりました……よろしくお願いいたします。ヴェル様、後はお願いしますね」
「お母様……大丈夫ですか?……」
「大丈夫よ……多分……」
悲壮感を漂わせる母と姉に、賢者が明るく言い放つ。
「心配しなくても、死なないからね」
「……それほど厳しいんですね。私も覚悟して修行します」
「私は、弟子二人を同時に教えるのか。これは時間的にもこの鈴蘭宮でするのがいいね。地下の練習場も使わせてもらうよ。私の部屋もこちらに移してね。お願いね。じゃあ、私は準備するよ。また、後でね」
嵐のように去っていった賢者の背中を見送り、イウローネが深い溜め息をこぼした。
「また、あの日が始まってしまうのですね……」
「お母様、一緒に頑張りましょう」
「ええ。二人で地獄を乗り越えましょう」
「儂もかなりきつい修行じゃったが、イウローネがあそこまでなるとは」
遠い目をするヴェルナードに、イウローネがにっこりと満面の笑みで振り返る。
「ねえ、ヴェル様?」
「なんじゃ……儂は……」
「一緒に修行しましょうね」
「儂は忙しいん……」
「ね!」
「……わかった。出来る限り時間を作ろう」
妻の威圧感に負けた父親の姿を見て、マクシミリアンが目を輝かせた。
「父上も一緒なんですか? 良いなあ。僕も、ダメですか?」
「マクシミリアン様、今は身体を鍛える時ではありませんよ」
身を乗り出すマクシミリアンを、婆やが優しく押しとどめる。
「今は、よく食べて、よく勉強して、よく遊んで、よく寝るんですよ。でないと心も身体も大きくなれませんよ」
「わかった。なら、爺やと婆やが教えてくれるか?」
「それはもちろんでございます」
「ねえ、婆や、賢者さまって怖いの?」
「マクシミリアン様、賢者様は怖くはありませんよ。出来ない者には無理をさせません。そして、ただ強さを求める者にも教えません」
「どうして? 強くしてあげればいいのに……」
首をかしげる幼い主に、婆やは穏やかな声で問いかけた。
「そうですね。では、婆やと爺やが、お腹が空いたからといって、ヘレナ様やソフィー様を叩いたらどうします?」
「そんなのダメに決まってるじゃないか!! そんな事したら死んじゃうよ」
「そうですね。婆や達が叩くと死んでしまいます。……そんな者を、強くしていいと思いますか?」
「……それは……ダメだ!」
「そうでしょう」
「なら、シャル姉さんは、賢者さまに認められたの?」
「そうでございますよ。ですが、とても大変な修行でございます。心と身体の両方を鍛えるのですから」
「シャル姉さん、すごいね……僕も頑張って認めてもらおう!」
ぐっと拳を握りしめるマクシミリアンに、婆やは慈愛に満ちた眼差しを向け、傍らにいる幼い少女たちにも優しく微笑みかけた。
「ヘレナ様もソフィー様も、一緒に大きくなるんですよ」
その温かな言葉に包まれ、子供部屋には穏やかで優しい時間が流れるのだった。
賢者、、、かなり凄い奴でした。




